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Writer's pictureRafu Shimpo

弥生

 3月初旬に開かれたアカデミー賞授賞式。最有力だった辻一弘さんが映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男(原題:Darkest Hour)』でメーキャップ賞を受賞。このカテゴリーでは日本人初の快挙を成し遂げた。  アカデミー賞の壇上でスピーチする辻さんと主演のゲーリー・オールドマンの表情とが交互に映し出された場面では、テレビのこちら側にいた自分もいたく感動した。  先に催された日本総領事館主催の祝賀会で辻さんと話す機会を得た。グレンデールにあったリック・ベイカーの工房「シノベーション」を訪ねた時以来だった。当時の辻さんは特殊メイクの巨匠ディック・スミスの門下である兄弟子ベイカーの右腕として活躍していた。  「あの工房は売ってしまった」  CGの台頭で特殊メイクを使う映画が極端に減ったせいか。時間も費用もかかる特殊メイクは、特撮や小道具制作と同様にハリウッドでは衰退傾向にある。辻さんは技術を生かし美術家へと転向した。今は羅府新報からほど近い街に工房を構えているという。  多くの映画人がそうであったように、辻さんも「スターウォーズ」の特撮に魅せられた一人。中学時代は自作の特撮を8ミリで撮るなど、映画少年らしい日々を過ごした。  高校生になり将来を意識して映画の職種を調べている時、スミスとベイカーの記事に出会う。「これしかない」と思った。スミスの私書箱の住所へ手紙を送ったところ、多忙なはずの巨匠から10日足らずで返事が返ってきたという。  高校生だった辻さんの熱意が伝わり、スミスとのやり取りは長く続いた。その縁はやがて彼をハリウッドへ導き、3度の候補を経て、今回のオスカー受賞へとつながった。  受賞後のインタビューで「すべてのタイミングが良かった」と語った。一度はハリウッドを去りながらも、今作でオールドマンの熱心な誘いを受け入れたのは、モンスターや宇宙人ではなく「人間の顔を特殊メイクで作る」作品だったから。  賞レースの日々から離れ、創作の日常に戻っているだろうか。【麻生美重】

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