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Writer's pictureRafu Shimpo

庭の千草

 毎年、アカデミー賞授賞式は見逃さないようにしている。映画は今でも最も人気のある娯楽だが、なおかつ、現在、アメリカ人が何を問題にし、何を求めているのか、その一面が分かる。娯楽とはいえ、物語の質が高ければ人々は惹きつけられる。いつも思うことは、受賞作品を選ぶアカデミー会員の認識の高さとセンスの良さだ。良い映画をきっちり評価する鑑識眼と権威は気持ちが良い。今年のアカデミー主演女優賞は、「The Three Billboard」という映画がとった。  私なんかレイプされて殺されちゃえ、って思ってるんでしょう。そういう言葉を投げ捨てて家を飛び出す娘の背に、母親は追い打ちをかける。ああ、お前なんか、レイプされて殺されちまえばいいんだ。どこの家庭でもある親子の口ゲンカだ。しかし、その日、娘は帰って来なかった。その日から永遠に帰って来なかった。二人の最後の言葉通りになってしまったからだ。  殺人者を探し出せない警察に怒り狂った母親は、なけなしのお金をはたき、ハイウエー沿いに立つ3本のビルボードに彼らの無能ぶりをなじる広告を出す。持って行き場のない後悔に苦しむ母親と、権威を守ろうとする警察。それぞれの苦しみの姿が描き出される。  映画の冒頭に、貧しく、退屈で、何の変哲もないミシシッピーの田舎の風景が流れ、寂しく、切ない女性の歌が重なる。どこかで聞いたことがある懐かしいメロディーだ。  先日、ふとかけた車のラジオで、同じ曲が流れた。「The Last Rose of Summer」と紹介された。聞いているうちに、やっと気がついた。子供の頃によく聞いた「庭の千草」という曲だ。庭の千草も、虫の音も、枯れて寂しくなりにけり。原曲はアイルランド民謡らしい。庭に残っているバラは、それでも健気に咲いている。愛する人に先立たれ、寂しさにもがきながら、後悔に耐え、屈せずに生きる残されたそれぞれの人の健気さを、メロディーは慰めるかのようだ。「庭の千草」が一気に時と場所を超え、人間の生きる姿を透視させてくれた。映画はこれだから良い。【萩野千鶴子】

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