惻隠の情
日本には古来、『惻隠の情(そくいんのじょう)』という言葉がある。この言葉は古く、中国・孟子によるものだそうで、日本人の思想・文化に大きく影響を与えた思想だ。 孟子によると『惻隠の心(情)』とは、相手の心情を深く理解することであり、親が子を思う心と同じで、相手の立場に立って、ものごとを感じとるという感覚上の自然の性格の発露なのだそうだ。 今、私たちが惻隠の情として表現する場合、孟子の説く惻隠の心をさらに発展させ、人の不幸をみて自分のこととして同情し、心を痛めると同時に、悲しみの気持ちや、人の痛みを理解し何かをしてあげたいという、弱者に対するいたわりや、思いやりの心を表す。人に対する同情や弱者へのおもいやりこそ、人として最高の徳に通ずるとする発想が日本人の思想の根底となっているからだ。 ところがこれは日本国内では普遍的に通用する論理だが、必ずしも国の外に向かって通用するとはかぎらない。国益を賭けた国家間の外交上、惻隠の情はむしろ邪魔になり、有害に作用することがある。他国の国内事情を配慮し、惻隠の情をもって他国と接すると厳しい外交交渉では不利になるからだ。「他国の嫌がることはいわない、しない」「いわんや相手国は近隣国だ」「相手国に配慮し、問題は当面『棚上げ』ということにしておこう」―― 最近、近隣諸国との領土などに関する軋轢(あつれき)はこちら側の惻隠の情が裏目にでている事案といえるのではないだろうか。麗しいわれらが惻隠の情も、時と場合により、使い方を考えなければならない。 領土など国益にかかわる大きな問題から、私たちの日々の生活まで、時には毅然とした態度表明が欠かせない。そのための国民一人ひとりの覚悟が問われているのが今だ。私たちも『お上』任せではなく、今自分のおかれた立場で何が出来るのかを真剣に考える必要がありそうだ。最近の日本の若者たち、特に海外滞在経験者が『自己主張する』『理屈っぽい』などと日本で非難される話を聞くが、これも前記のような現実に対する彼らの対応という側面もあるのかもしれない。【河合将介】
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