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Writer's pictureRafu Shimpo

EATADAKIMASU:ミシュラン二つ星シェフ・成澤由浩さんLAで写真展 

デザート「椿と麹」。米麹ともち米を発酵させたペーストの上に、柚子風味の椿の花びらのジュレを添え、葉脈まで再現されている繊細な一品


自然保護の観点から食を表現 レストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ

 政府の政策や企業戦略などで近年よく耳にする「サスティナビリティー(再生可能)」という言葉。日本でいち早く、再生可能というコンセプトに着目し、「サスティナビリティーとガストロノミーの融合」をテーマに斬新な料理を作り出すシェフがいる。東京・南青山にあるミシュラン二つ星レストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩さんは、日本の里山の豊かな食文化を生かし、自身のフィルターを通して料理で表現する「Innovative Satoyama Cuisine (革新的里山料理)」という独自のジャンルを確立。料理界のアカデミー賞と呼ばれる 「ワールド50 ベスト レストラン」に現在まで10年連続で選出され、世界中の美食家たちを魅了してきた。そんな成澤さんの食の世界観を伝える写真展が1日から1カ月にわたってロサンゼルスのユニオン駅で開催されている。フランス料理と日本料理の融合、そして自然保護という観点から食を表現する成澤氏に、料理に対する情熱などを聞いた。【吉田純子】

「土のスープ」誕生 「これが食の原点だ!」

 成澤さんの料理は、まずその斬新な発想に驚かされるところから始まる。もっとも有名な一品が「土のスープ」だ。  日本の里山文化が今なお残る土地で、有機栽培の畑を営む生産者から成澤さんは20年ほど前から野菜を仕入れている。日照時間が非常に長く、昼夜の温度差が激しい標高1000メートルの高原で育った野菜。初めて口にしたときの衝撃は、成澤さんの料理人としての人生のなかでもっとも衝撃的な出来事だったという。  ある1月の寒い冬の日、成澤さんは枯れ草さえ残っていない畑を訪れ、そこで目の前に広がる土のふくよかさと足下から伝わるエネルギーに「大地の生命」を感じた。「この生産者は野菜を育てる前に、この土を育てていたのだとその時気づいたのです」  「安全でおいしい完璧な野菜は、なによりも完璧に安全な土があってこそ育つ。この当たり前の事実を多くの人に伝え、それを実践する人々がより多く増えてくれれば、地球はもっと素晴らしい環境になる、これが食の原点だ!」

成澤さんの代表作ともいえる「土のスープ」

 成澤さんはすぐに厨房にその土を持ち帰り調理した。試行錯誤の末、「完璧に安全な土」とその土で育ったゴボウと水のみを使用したシンプルなスープが完成した。  「私は自身の勘によって得た土の安全性を保証するため、国家公認の土壌鑑定検査によってその安全性を確認しました。さらにその土を拡大顕微鏡で見たところ、多数の微生物が生息していることが確認できました。生きている土からは自然の旨味や甘味、さらに塩味を感じることが出来るのです」

恐る恐る口にすると― 真冬の土が一番まろやか

 こうして2001年に「土のスープ」が誕生。瞬く間に世界中の食通やシェフたちに知れ渡った。  レストランで初めて「土のスープ」を提供した時、客はとにかく驚いた。不安や疑問が渦巻き、ショックを受けている様子だったという。そして恐る恐る口に運ぶ。  「普段、食べるという行為に無防備になってきている現代に突然現れた危険を感じる感覚。まさにこれがこの料理の狙いです。真剣に今から口にしようとするものを安全かどうか疑い、考え、迷う。本来持っている人間の動物的な感覚が蘇ります。これがこの料理のメッセージなのです」  「完璧に完全に安全」な土しか使用しない。だからこれまで1カ所の土しか使用したことがないという。季節によって味わいも異なり、1月後半から2月後半の土のみを使用。土の中の生き物が静かに冬眠している真冬の土が一番まろやかなのだという。「この料理でもっとも重要なのは自然環境を守り続けること、そしてそこから生まれる安全性を確保することなのです」  土のスープは年月とともにアレンジも加わり進化していった。貝類、根菜類、土のスープを使って大地の地層を表現した料理や、土のミネラル感を表現する牡蠣やワインで構成した料理などにも応用されていった。

生まれ育った日本が影響 インスピレーションは自然から

 成澤さんのインスピレーションはすべて自然からきている。「自分が自然の中にいる時、また自然と向き合っている人々との出会いがインスピレーションの源です」。そんな成澤さんだからこそ、信頼できる農家を選ぶ際にもこだわりがある。「常に安全な食材を生み出し、畑だけでなく森と大地と海のつながりを考え、20年、30年後の環境のことを考えて行動している農家」。こうした要素が求められるのだ。

加茂茄子の一品「祇園祭り」。華やかな色合いが祇園祭りの山車を思い起こさせる

 人と環境にとって安全で持続可能であること。そして生きる喜びを得られるおいしい食を提供することがシェフとしての譲れないポリシーだ。  「日本で料理を作る以上、日本の地理的な環境、気候、風土、そこから必然的に生まれた食の歴史。そういったものから日本ならではの食文化を追求し、独自の表現で料理を作っていきたいと思っているのです」  成澤さんが生まれ育った愛知県常滑市は典型的な日本の地形の土地だという。目の前は海、振り向けば緑生い茂る森。幼い頃から近くの海岸で泳いだり、釣りをして育ったという。「学校に行く途中は森の中の植物で遊びながら、花の甘い蜜を吸ったりしました。そんな経験の数々は今でも強烈に覚えています。そんな豊かで安全な環境を後世に残したいという思いが今の食に対する考え方につながっているのです」

ユニオン駅で写真展 成澤さんからみたLA

ミシュラン二つ星レストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ成澤由浩さん

 「海があり、山があり、太陽が光り輝き、人々は自由な表現が許される明るいイメージ。そしてオーガニックの野菜や果物にあふれる食に対して意識の高い人が多く住む街」というのが成澤さんからみたLAだ。  ユニオン駅の展示は、成澤さんとブラジル人写真家Sergio Coimbraさんとの3年に及ぶ日本全国の食文化を探求した旅の写真展。成澤さんの料理と哲学、そしてCoimbraさんの写真を通して、日本の本質で、日本人のアイデンティティーでもある里山文化を紹介する「SATOYAMA」本の展示となっている。  日本の食文化を守り、次世代へとつなげていくための活動を今後も成澤さんは続けていく。(写真「NARISAWA」提供)

里山の景色をイメージして作り上げられた料理「里山の風景」


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