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Writer's pictureRafu Shimpo

「お年玉あげます」

 年明けて母に付き添って心療内科の定期検診に行った。父が亡くなった後に鬱(うつ)で寝込んでしまった母も、数年通院した今では幸いなことに、時には一人で外出するまでに回復している。  近況を報告すると、「いいお正月を迎えたようで良かったですね。何か質問はありますか」とN医師。母と二人で顔を見合わせていると、「なければ、私からお年玉を上げましょう」  きょとんとする私たちに「立って下さい。そして身体の前で両手の指を組み合わせてください。いつものように」「その組んだ両手を私が上から押しますから、踏ん張って下さい」  医師が力を加えると、母も私も次々と同じようにグラリとよろけ、後ろに控えていた看護師に支えられた。  「今度はね、前とは違う指の組み合わせ方をして下さい。先ほどは左親指が一番上だったら、今度は右親指を上にするという風に」。「また押しますからね、今度はどうでしょう」  すると、同じ程度の力で押されたはずが、今回は身体が倒れることなく持ちこたえている。「不思議でしょう」「いつもと違う指の組み合わせ方をすると、身体が緊張して普段と違う力が生まれるのですね。身体には、自分の知らない力が潜在能力として存在しているようです。お二人にはこのことを、私からのお年玉として差し上げます…」  種明かしをすれば、武術の心得を日常生活に活用するという一冊の本に出会ったのだという。潜在能力云々は、それを医師なりに解釈してのようだった。家に帰って夫に試すと、夫も驚いていた。  紹介された本によれば、これ以外にも、歩くときは手指も軽く動かすと歩行が楽になることや、薬指と小指で物をつかむと想像以上の力を発揮するなど、普段使わない器官も、使うとより大きな効果が得られるようなのだ。が、それらの実践は今後の私の宿題として、読者の皆さんにはここにN医師からの「お年玉」をお届けする。  さあ、いつもと違う指の組み方をし、誰かに押してみて貰って。普段とは違う自分の強さを感じるのでは。この体験が、いつか役にたつ日があるかもしれない。 【楠瀬明子】

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