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Writer's pictureRafu Shimpo

「バイキャード」って

 あまり友達は持たない方だが、最近、「お友達」ができた。同年代だから話ははずむ。ふと気付いたことに、彼女の話の合間には、何とうまく英語が挟まっていることか。在米50年と聞いて合点がいった。日本でどっぷり50年暮らしてきた私は聞き手に回る。先日、「バイキャード」ということばが飛び出してあっと思ったのは、野本さんのエッセイを読んだばかりだったから。ベゾーがバジルのことだと気付くのにも時間がかかった。  米国に来た当初は耳慣れない英語に驚き、そのレトロ感にしびれもした。グラージ、ミシーン、バイタミン、テケツ、ギャス、バキュームなど。「掃除機」と言ったら「何ですか? それ」となかなか理解してもらえなかった。日本で「バキューム」と言えば、バキュームカーのことで、汲み取り式便所の汚物を吸引するトラックを指す。  最初に住んだアパートの大家さんは80歳を少し出た江戸っ子だった。小柄な人で、背伸びをして私の部屋の窓から顔だけのぞかせて、「千絵さん、帰ってる? お茶を入れたから来ない?」と、よく誘ってくれ、おしゃべりした。横浜でタイピストだったこと、二世のご主人と結婚してこちらに来たことなど、「エニウェイ」を挟みながらぽんぽんと話した。Fワードも平気で言うので「オイオイ!いいのかい?」と私の方が心配した。  コーヒーを注文してコーラが出てきたという笑い話はよく聞く。教科書英語が全く通じないのは、こちらへ来て初めて痛感したことだ。  「旅の指さし会話帳(アメリカ)」なるシリーズ本がある。キャッチフレーズにぶっつけ本番で会話が出来る! とある。  Water(ワァールゥ)、Post office(ポゥスッアーフェス)に始まり、How about you?(ハゥバウチュウ)、Take it easy(テイケリーズィー)とこんな具合だ。くり返しフレーズを読んでいると、妙に納得でき、英語を日本の文字で表わすことの巧みさに笑いさえこみ上げてくる。と同時にネイティブの発音をおうむ返しに覚えたのであろう先人たちの英語がダブってくる。英語ちゃんぽんの日本語も日系社会の文化のひとつだと思えるのです。【中島千絵】

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