「千両役者のお通りだ」:威風堂々と大とり
ファースト・ストリートを練り歩く中型ねぶた「津軽海峡 義経渡海」
16日、夕闇迫るグランドパレードに、8年ぶりに雄姿を表わした中型ねぶた「津軽海峡 義経渡海」。「光る彫刻」と称される芸術品は、存在感を誇示するために観衆を焦らしながら日が落ちるのを待ち暗闇の中で出陣。「そこのけ、そこのけ、千両役者のお通りだ」—威風堂々と大とりを務めた。約50分にわたり小東京を練り歩き多くの感動を与え、第75回記念の二世週祭を飾るにふさわしい期待通りの活躍を見せた。【永田 潤、写真も】
練習の成果を発揮する囃子保存会の笛の演奏
セカンドとセントラルの交差点の起点で静かに出番を待ったねぶた。時間差で順々に明かりが灯ると「オッー」という歓声が沸き起り「ビューティフル」などと、感嘆の声が上がった。
「ドーン」と夜空に轟く大太鼓の合図とともに、満を持しての出陣。太鼓と笛、鉦(かね)で軽快な音を奏でる囃子とともに、「ラッセラー、ラッセラー」「ラッセ、ラッセ、ラッセラー」と、掛け声を張り上げるハネト約120人が乱舞し、ねぶたを盛り立てた。
進路の指示を出す「扇子持ち」と引き手の息は、ぴったりと合い、ねぶたは、歩道の木々の枝を巧みにかわし、蛇行しながら前にゆっくりと進んで行く。待たせた観衆に対しては、沿道に向かって前後に2、3度揺れ、お辞儀をして「ごあいさつ」。観衆に迫っていく義経。でかくて、いかつい風貌にその多くが、威圧感を覚え「ウォー」という唸り声が幾度も聞かれた。
さらに、回転するパフォーマンスで魅了すると「圧巻」「ワンダフル」。歓喜に応え5、6度も回り、サービス精神旺盛なショーマンシップを披露した。ねぶたショーは、ねぶたと、囃子、ハネト、観衆が「四位一体」となりクライマックスに達し、有終の美を飾った。
元気に跳ね、ねぶたを盛り立てるハネト
構想から約2年を費やした、ねぶたプロジェクト。同夜は、本家青森とロサンゼルス日系社会が心を一つにし、プロジェクトが結実した瞬間だった。制作の技術指導のみならず「津軽の郷土文化を伝えたい」と、青森では「LAねぶた実行委員会」を結成し、ひのき舞台に備えた。今回は、役員と囃子、ハネトの頼もしい助っ人総勢約80人が来米し、サポートした。
青森とLAの両者はパレードを成功させたことで、絆をさらに強めた。祭りが済んだ余韻に浸りながらも、寂しさを感じていたが「また、やろう」と、次に向い士気を再び高めた。次は「ハリウッドパレード(クリスマス)だ!」(11月29日)と叫び、夢を膨らませていた。
加賀谷久輝・青森市副市長 大成功に終わってよかった。「おめでとう」と祝いたい。大きな感動を与え、感謝したい。今回は2度目のLAでの運行。2度あることは、3度あるので、また応援に来たい。県人会のメンバーが、故郷を誇りに思って、ねぶたを続けてほしい。
林 均・青森菱友会ねぶた実行委員長 ねぶた祭りは、ねぶたの明かりと囃子、ハネトが一体になってこそ成り立つ。その「ねぶたの力」を見せることができてうれしい。青森県人会がしっかりと活動しているので、これからも菱友会は支援していきたい。願うのはLAのねぶた関係者が、本場青森のねぶたを見に足を運ぶこと。交流がもっと深まれば、ねぶたの発展につながると思う。
力強い演奏を披露し、太鼓の音は小東京の夜空に響いた
奈良秀則・青森ねぶた祭実行委員長 今回は、LAの地元のみなさんを支援するために来た。盛り上げるために、ねぶたの陣立てをしかっりした。2銀行の頭取、新聞社の社長、商工会議所の会頭と全役員などのそろい踏みで、青森でもこれほどのメンバーを揃えるのは、難しいほど。青森ねぶたは、コンテストがあるので戦いの場であるのに対し、LAは純粋な祭りを楽しんでいる。あたり前にねぶたの山車を出すのが青森。一方のLAは、ねぶたを出す喜びを持っている。純粋なねぶたを見せてもらい、原点に戻った気分になりうれしい。LAを手本にしたい。
ねぶた師の竹浪比呂央さん 8年ぶりのねぶたの運行で、また興奮した。制作を手伝ってくれた囃子の方は、自分で紙を貼ったねぶたと一緒に演奏できて、感動したと思う。それを見て私も感動した。今回は、LAねぶたを応援するために来たが、ここにねぶたが定着していることがあらためて実感でき、とてもうれしく、ねぶた師の冥利に尽きる。機会があればいつでも応援に来たい。ハリウッドで披露してくれば最高。
テリー・ハラ二世週祭委員長 ハネトと囃子、ねぶたのパフォーマンスはすばらしかった。日系コミュニティー始まって以来の盛り上がりを見せ、たくさんの称賛の声をもらってうれしい。これこそが、コミュニティースピリットだと思う。ねぶたを所有することで、みんなでこの精神を共有できることがうれしい。青森と日系社会のみんなに「アリガトウ」と感謝したい。
奈良佳緒里・青森県人会会長 言葉はいらない。あんなに多くの人が見に来てくれるとは思わず、あの熱狂を見て、とてもうれしかった。ハリウッドパレードにぜひ、ねぶたを出したい。8年前にLAに、ねぶたの火が付いて、囃子の練習を続けてきた甲斐があった。これからも粘り強く続けて、アメリカの人を喜ばせたい。
豊島年昭・囃子保存会会長 ねぶたの運行中は、鳥肌が立った。みなさんにこんなにたくさん集まってもらい、とてもうれしく、感謝の涙をこらえて、囃子を頑張った。みなさんには「ねぶた、ねぶた」と叫び、宣伝してもらい、「ねぶた」を英語の単語にしもらいたい。青森は5日間、でもLAは1日のわずか1時間の運行だったけど楽しかった。青森との絆を大事にして、がんばりたい。
囃子指導の三上勝司さん 過去2回囃子の指導で訪米した。みんな上手くなり、着実に練習を重ねた様子が分かった。最後まで笑顔を絶やさず、本当に楽しんでいて、すばらしかった。教えることは何もない。「グッドジョブ」と褒めてあげたい。
ねぶたを背に囃子保存会のメンバーら有志に胴上げされ、宙を舞う豊島年昭会長
扇子持ちの先陣を切る「ねぶた祭実行委員」の役員ら。左2人目から奈良秀則・青森ねぶた祭実行委員長、奈良佳緒里・青森県人会会長、堀之内秀久・サビーン総領事夫妻。右から2人目が豊島年昭・囃子保存会会長
囃子保存会の山村俊夫さんが制作した「那須与一 扇の的」(右)と竹浪比呂央さんが制作した「津軽海峡 義経渡海」
Comments