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Writer's pictureRafu Shimpo

「和」のテイストで「粋」表現:20キロものクリスタルを駆使:人気の若手ポップ歌手とコラボ

衣装デザイナーとしてのキャリアを語る押元さん

 ハリウッドで衣装デザイナーとして活躍する押元末子さんがこのほど、カザフスタンのポップ歌手ディマシュ・グダイベルゲンの初ワールドツアーのオープニング衣装を手がけたことを発表した。オーストリアのクリスタル・ガラスメーカー、スワロフスキーとのコラボレーションにより、20キロものクリスタルが提供され、豪華な衣装に仕上がった。その自信作を前に、押元さんは制作過程を振り返り今後の活動についても語った。【麻生美重】  昨年の秋ごろ、グダイベルゲンの衣装デザインを依頼するEメールが押元さんの事務所Kimono SK宛に送られてきた。中国のコンテスト番組「歌手2017」で2位となり、中国のみならず全世界で人気上昇中の若手ポップ歌手が初のワールドツアーをする。そのための衣装デザインという内容だった。シンガポールにあるプロモーション会社が日本風の「和」のテイストを入れられるデザイナーを探していたところ、押元さんを探し当てたという。押元さんの他にアメリカ人と中国人の二人のデザイナーが選ばれ、このプロジェクトが正式に始まった。

森本隆士氏のイラストレーションによるローブのイメージ画

 3人のデザイナーは各自でデザインを起こし制作する。時差のあるプロモーション会社とは主にメールで連絡を取り合い作業が進められた。押元さんが担当したのはオープニングで着る衣装。イメージは「宝の山から発掘されたグダイベルゲンが華々しく登場する。その場面にふさわしいもの」  送られてきたステージデザインは青が基調。そのイメージを参考にしたり、他のデザイナーの使う色を避けるなどして十数枚のデザイン画を起こした。グダイベルゲンとスタッフが最終的に選択するまで時差などの関係で時間を要したが、押元さんは依頼から3カ月弱ですべてを仕上げた。「普段は監督やプロデューサーと直接ミーティングし脚本を読んだりしてイメージを膨らませるが、今回はディマシュに会っていないので、イメージをつかむことにやや手間取った」押元さんはこう振り返った。

歌舞伎をイメージしたローブ 裏地を見せ、重厚な趣を施す

 制作に当たってはスワロフスキーに冗談混じりでこんな注文をつけた。「クリスタルを思い切り贅沢に使ってみたい」。するとクリスタルビーズの箱がいくつも届いた。総量にして約20キロ。これには同社CEOでモデルや作品の撮影を担当する寺内健太郎さんも驚いたという。「スワロフスキーのクリスタルは長い期間使用しているが、通常は小さな箱が送られて来る程度。普段使う量とは雲泥の差」

衣装製作の舞台裏を語る寺内さん

 デザイン画が決まると次は縫製。日本にいる縫い子さんに依頼しながらスーツとローブの本体部分を仕上げ、クリスタルビーズを一個一個付ける作業は押元さん自身が手がける。ステージ上での光の当たり方を計算に入れ、ビーズの重なりによって音が出ることも避ける。大きさや色に十分注意し、大量のクリスタルをデザインどおりに配置する。集中力がいる作業で「体力的な疲れ」は感じるが、それに負けない忍耐力がある押元さん。「2カ月間寝る間もなく大変だったけれど、とても充実していた」ゆったりとした口調で当時を振り返る。

 実物の衣装を手に、押元さんはこう説明する。「ローブは日本の歌舞伎のイメージを取り入れ、裏地部分にクリスタルをあしらった」おしゃれな男性の着物にも見られる裏地の「粋」。ちらっと見えるのが本来の裏地効果だが、ステージ衣装ではあらかじめ裏を見せるデザインにしたという。  「打掛」のように裾部分に綿を詰め、重厚な趣を施した。「宝の山から発掘されたディマシュ・グダイベルゲン」というテーマに沿うように、肩の部分を特徴的に、インパクトのある仕上がりとなっている。

本社に保存している衣装と押元さん。ディマシュの背の高さがよく分かる。

 グダイベルゲンのコンサートが動画サイトで公開されると、インスタグラムやYouTubeには、クリスタルをふんだんにあしらったスカイブルーの衣装について賞賛のコメントが数多く寄せられたという。

古典とモダンの融合求め 着物文化の世界発信に意欲

 グダイベルゲンの衣装を仕上げた後、押元さんは4月28日にソルトレークシティーの桜祭りで開催される着物ファッションショーの準備に取り掛かった。「振袖、訪問着、黒留袖、色打掛と白無垢も入れて、できるだけ華やかに見せたい」。日系以外の人種が多いというソルトレークシティーでの開催に合わせ、大正から昭和初期くらいのビンテージ着物も取り揃えたという。日本の着物文化を継承する職人の技術を世界に発信したいと意気込みを見せた。  「日本国内では安価なものがよく売れる。けれども職人の作る高価なものは売れにくい」押元さんと寺内さんは口をそろえる。職人の技術を廃れさせないために、海外への販路を開拓している。着付けなしで着物を楽しめるよう工夫し、ドレスやローブのようにデザインすると海外の着物ファンは喜ぶという。  着付けで知られる山野流着装教室アメリカ支部の事務局長の肩書きをもつ押元さんには基礎技術を心得ているという自負がある。そこに裏付けられた自らの制作、古典とモダンを合わせたスタイリングに不安や迷いは一切ない。  ファッションデザイン以外の仕事も多岐にわたる。4月22日よりシーズン2が始まるHBOの人気シリーズ「ウエストワールド」ではワードローブのサポートとして現場へ入った。ハリウッドで活躍する俳優の真田広之や菊地凛子をはじめ、当地で躍進する日本人俳優との撮影では、創作とはまた違う活気を見出す。7月には サンタモニカの劇場で、舞台「無頼」の公演も始まる。現在は監督やスタッフと衣装についての話し合いを重ねているところ。「無頼」の公演は今回で3度目。馴染みの俳優、スタッフを組む再タッグを楽しみにしているという。  日本人の心、品格を大切にしつつ、海外への着物文化発信と融合を求め続ける押元さん。その精力的な活動のようすに「休息」という文字は見当たらない。【麻生美重】

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