「外交は人と人のつながり」【後編】:藤崎一郎前駐米大使 日米交流の懸け橋に
日米協会の会長として国際舞台の第一線で活躍する人物を招き講演会なども開催する藤崎氏
「外交とは人と人とのつながり―」。外交官として国際舞台の第一線で活躍し、外務省北米局長などさまざまな要職を歴任。2008年からは在アメリカ合衆国特命全権大使として約4年半ワシントンDCで過ごした藤崎一郎前駐米大使。12年に外務省退官後は大学教授、そして一般社団法人日米協会の会長にも就任し、日米の懸け橋として活動を続ける。藤崎氏に5月の安倍首相訪米や駐米大使時代の思い出、現在の日米協会会長としての活動など話を聞く後編。【取材=吉田純子、写真も】
他国の人と築く信頼関係 大使在任中起きた震災
「外交とは人と人とのつながりです。他国の人と信頼関係を築く上で一番大切なことは、できないことをできるようミスリードしないこと。正直にできることはできる、できないことはできないとはっきりさせることが重要なのです」
現在も日米の懸け橋として多忙な日々を送る藤崎氏。その活動拠点の日米協会で。オフィスは明るい空間を意識し一新させた
外交官時代、「外交官のいちにさん」という3箇条を掲げていた。ひとつは文章を書く際は大切なことだけを簡潔にまとめること。 2つ目は大事な話は1対1で行うこと。20人の前と1対1では言えることが違ってくる。少人数での信頼関係を築くことが大切なのだと話す。 3つ目は着任したら3カ月以内に知り合いを作ること。藤崎氏の最初の海外勤務地はインドネシア。「当時から大事だと思った人のところには毎日コーヒーを飲みに行っていました」 駐米大使だった頃、任務は大きく分けて4つあった。ひとつは米国の国内情勢を東京に伝えること。2つ目は基地問題や経済問題などについての米国との交渉。3つ目は日本の米国でのイメージ向上。4つ目はイランや北京問題など国際情勢を抑えること。 駐米大使在任中に東日本大震災が発生。外交官人生で最大の難局だったと振り返る。直後は東京からもなかなか情報が届かない状態。しかし国務省や国防省の役人と毎日会い、全米ネットワークのテレビに出演し、現状を説明しなければならない。米国のテレビ出演は台本など何も用意されず、ぶっつけ本番。どんな質問をされるか事前に知らされることはない。 「大使館の職員を集め毎朝情報収集にあたりました。福島第一原発でメルトダウン(全炉心溶融)が起きているのか否かの説明、何を要請するかなどの対応に追われました」 そんな折、忘れられない思い出も。震災後、米各地で日本への支援の手が差し伸べられたのだ。自分の誕生日プレゼントのためにとっておいた20ドルを寄付してくれた子ども、千羽鶴を折りスクールバスで大使館に届けてくれた学生集団など、多くの人が日本を気にかけているのを肌で感じたという。 国務省でも対策本部が設置され、自国のように24時間体制で米政府や米軍などと支援に関する連絡や調整にあたっていた。 「多くの人には海兵隊のトモダチ作戦が印象に残っているようですが、実はそこに指令を発しているのはワシントンDCであり、オバマ大統領以下が支援の指令を発していることも忘れてはならないと思います」。同大統領は弔問に訪れた際、「できる事は何でもする」と声を掛けたという。 また「米国の冷静な対応により、震災後、米食品医薬品局(FDA)が大騒ぎしませんでした。当時一部の国からは、日本からの輸入品の受け入れ停止の動きがありましたが、米国からはなかった。もし米国がその流れにのっていたら、世界中が従っていたかもしれません。われわれはそのことにも感謝すべきです」。
大学教授として人材育成 国際経験生かし講演会
外務省を退官した翌年に慶應義塾大学と上智大学の特別招聘教授に就任。上智大学では週に1度、学生15人ほどに国際問題における重要点を取り上げ議論するゼミを担当している。また、ジョン・ルース前駐日米国大使をはじめ、各国大使や国際的に活躍する人物を招き、藤崎氏が10分ほど対談し、その後学生と意見を交わす対話型プログラム「世界を話そう」を開催している。
たくさんの書籍に囲まれた上智大学の研究室。ここでコーヒーアワーを設け藤崎氏と学生が議論できる場を提供。コーヒーを飲みながら学生と国際情勢や自身の外交官としての経験などを話している
自身の研究室ではコーヒーアワーを設け、藤崎氏と学生が議論できる場も提供。コーヒーを飲みながら学生と国際情勢や自身の外交官としての経験を話しているのだという。 また日米協会の会長として、外交官生活の中で築いたネットワークを生かし、日米交流に携わってきた人物を招き講演会やシンポジウムを開催。今後の日米関係について議論し意見交換する場を設けている。 自身の米国での経験は日米協会のオフィス作りにも生かされている。会長就任と同時にオフィスのデザインも一新。米国式のグループディスカッションや大人数の講演会にも対応しやすいよう、机や椅子を軽量かつ移動しやすいものに替え、日々行われる多様なスタイルの会議や講演会に瞬時に対応できるよう工夫した。明るく空間を最大限に生かしたオフィスには日米所縁の物が置かれ、中にはロサンゼルスの土産店で購入したという置物も飾られていた。 これまでにもコロンビア大学政治学教授のジェラルド・カーティス氏や米航空宇宙局(NASA)のチャールズ・ボーデン長官らを迎え藤崎氏が対談、その後参加者からの質疑応答に応える米国式の講演会を実施している。 藤崎氏は今の元気な日本の姿を民間交流によって米国に広める「歩こうアメリカ、語ろうニッポン」プログラムでも団長を務め、今年3月にはロサンゼルスを訪問。日米交流の懸け橋としての活動に尽力している。 藤崎氏が安倍首相の訪米について語った前編はこちらから
在日アメリカ合衆国大使館商務担当公使アンドリュー・ワイレガラ氏(正面中央右側)を招き日米協会で講演会を開催した時の模様。同氏の左隣で司会進行役を務めたのが藤崎氏(日米協会提供)
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