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Writer's pictureRafu Shimpo

「沈黙—サイレンス」

 没後20年を迎えた遠藤周作の代表作「沈黙」がハリウッドの巨匠マーティン・スコセッシ監督の手で映画化され、話題になっている。  キリシタン弾圧下の長崎に潜入したポルトガル人司祭が幕府の囚われの身となる。司祭は「踏み絵」を踏むことを拒んだ村人たちが次々と処刑されるのを目の当たりにする。お前も「踏み絵」を踏めば、村人は助けてやる、と言われ司祭は踏む。「転び」(棄教)として余生を過ごす元司祭だが、死んで棺桶に収まったその手には十字架がしっかりと握りしめられていた。  遠藤は長崎で一枚の「踏み絵」を目にする。そこに残された足跡と摩耗したイエスの顔から「沈黙」の着想を得た。  国、民族、宗教…人間は意識の中で自分の居場所をどう選び、形作っていくのか。  東洋人のカトリック教徒・遠藤は、キリスト教という宗教を超えた次元で人間にとっての精神の拠り所とは何か、を問いかける。西洋人のカトリック教徒・スコセッシはその問いかけを見事に映像で再現している。  司祭のほかにもう一人の主人公がいる。遠藤がのちに「彼は私自身だ」と明らかにする「キチジロー」という若者だ。踏み絵を踏んでは、そのあと、神に許しを乞う。それを繰り返す弱い人間だ。  「弱きものに生きる場はあるのでしょうか」と問いかけるキチジローを司祭は優しく抱擁する場面がある。  遠藤の愛弟子だった加藤宗哉氏は、「遠藤は厳しい父なる神ではなく、優しい母なる神を追い求めていた」と語っている。(日経ビジネス・オンライン1月31日付)  アカデミー賞にはノミネートされなかった。  が、ハリウッド地元紙「ロサンゼルス・タイムズ」は、「観客は、偉大な二人の芸術家の魂が融合するのを目撃するに違いない」と絶賛している。【高濱賛】

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