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Writer's pictureRafu Shimpo

とんかつ考

 三浦哲郎に「とんかつ」という短編がある。  母親に付き添われた一人の若者が福井・東尋坊の宿に一泊する。僧侶だった父が急逝。跡を継ぐため、翌朝、名刹に入門するためだった。おそらく「瀧谷寺」(たきだんじ)あたりだろう。  宿の主人は出家する若者をもてなそうと、母親に何が食べたいかを尋ねる。即座に「とんかつをお願いします」。「とんかつ」は息子の大好物だったのだろう。  一年後、母親がまたやってくる。修行中に骨折した息子を見舞いに来たのだという。寺では会えないので宿に若者を呼んだのだ。  主人は殺生は禁じられていることを知りつつ、また「とんかつ」を用意する。「よろしかったでしょうか」と尋ねると、新米修行僧は「とんかつ」の匂いを嗅ぎながら笑みを浮かべ、無言で合掌する。  禁を破って「とんかつ」に舌鼓を打つ修行僧。それを温かく見守る宿の主人と母親。ユーモラスだが、じーんとくる小話だ。  「とんかつ」発祥にはいくつかの説があるらしい。  1921年、厚いヒレ肉の「とんかつ」を初めて売り出したのは新宿の「王ろじ」だという説。29年に上野・御徒町の「ポンチ軒」が販売したのが「とんかつ第一号」だといった説などなど。(ウエブサイト「食べ飲み『うどめし』」)  いずれにせよ、昭和初期には「とんかつ専門店」が東京の下町に次々とオープンし、「とんかつブーム」が起こったらしい。  その「とんかつ」だが、どうやったら衣サクサク、肉汁がじわーと、揚げられるのか。  調理学が専門の松本仲子博士によると、油と水の関係を「科学」することが揚げ物のコツだとか(朝日新聞国際版9月19日付)。同博士は、「とんかつ」の場合、豚肉に火が通る温度は華氏338度から348度、水分が逃げ出す加熱時間は3分から4分間だと伝授している。  「和幸」の「ロースかつ」が無性に食べたくなってきた。【高濱 賛】

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