アメリカの資格
資格がないと働けない職業は五万とあるだろう。一度取得するとパーマネントに使えるものもあれば、何年か毎に取り直すものもある。リアルターや公証人の資格もその一つ。4年毎だ。必要な書類を揃えるだけでも面倒だが、数年おきに勉強し、テストを受けるのも、気が重い。年齢を重ねるにつけ、頭の血のめぐりも悪くなり、第一、目が見えない。そんな自覚症状は本人が一番よく知っているから、ひょっとして今度はテストに受からないかもと、不安になる。滞米年数が日本より長くなり、仕事上は英語に不便はないが、やはり日本語で勉強をするのとは訳が違う。母国語は自然に頭の中に入るが、英語は気合の後押しがいる。 数科目を一定時間勉強し、それぞれのテストをPCで受けられるリアルターの資格は比較的気楽だ。受かるまで、コツコツ夜中でも勉強すればいい。面倒なのは、公証人の資格だ。早朝から夕方まで丸一日のセミナーを受講し、その後、その場でテストを受け、合否が決まる。これは英語がネイティブでないものには、辛いところがある。 一体どんな人たちがこの資格を取ろうとしているのか。会場のホテルの会議室には60―70人くらい集まっているが、30―40代の人がほとんど。話すと資格が仕事上必要なので、会社から派遣させられたという人が多い。アジア系は私以外にわずか1人だけで、ベトナム系の女性は私より少し若く、その会場では、60代半ばの私が最高齢者のようだった。 セミナー終了後、講師と入れ替わりに州政府から派遣された3人の試験官がくる。厳しい雰囲気の中で試験開始。30分を過ぎると周りの人が次々にいなくなる。彼らにはやさしい試験なのだ。それは分かっている。でも私には時に問題の意味さえ理解出来ないことがある。制限時間の50分まで粘り、タイムと言われて顔を上げると、広い会場に残っているのは私一人だけだった。疲れと緊張で惨めだが、こんな歳まで試験を受ける気力を嬉しくも思う。落ちたら、また、受けなおそう、働き続けるために。【萩野千鶴子】
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