アメリカ大陸、自転車で横断:親子3人の47日間奮闘記
フロリダからカリフォルニアまで自転車での大陸横断の旅を達成したジョンさん(左から)、ジョエルさん、ジェニファーさん親子
「これができたら人生のどんな苦難も乗り超えられる気がした。父親になった今、子どもたちにも同じ感動を味わってもらいたい―」。2016年夏、フロリダ州からカリフォルニア州までを自転車で横断した親子がいる。ロサンゼルス郡ウエストヒルズ在住の父ジョン・ナカマさん(54)、長女ジェニファー・チョイ・ナカマさん(16)、長男ジョエル・ナカマ・チョイさん(13)の3人だ。6月15日から7月31日までの期間、自転車で大陸を駆け抜けた親子の47日間に迫る。【取材=吉田純子】
タイヤのパンク8回 子どもたち、1度もけがなし
テキサス州に突入し親子で記念撮影
父ジョンさんは22年前、32歳の時、たったひとりでフロリダからサンディエゴまでを自転車で横断した。ゴールを踏んだ時、これからの人生の荒波にも立ち向かっていけるような自信が全身にみなぎった。「走り終えた後の達成感を今度はこどもたちに味わってもらいたかったのです」
今回、親子3人で大陸横断をするにあたり、心配はつきなかった。けがやタイヤのパンクなどの自転車の故障、事故や犯罪などトラブルに巻き込まれる可能性だってある。「当時はひとりだったので自分の心配だけすればよかった。しかし今回は違う。子どもたちがけがなく、無事安全運転で目標を達成できるか、そればかりが気になってしかたなかった」
砂漠の中の道でもひたすら自転車をこぎ続ける
そんな心配とは裏腹に、実際にけがをしてしまったのは子どもたちではなくジョンさんのほうだった。「息子ジョエルに安全運転するよう注意をしていた時、自分が材木に衝突していまい、けがをしてしまったのです」。47日間の道中で、3人が遭遇したけがは唯一ジョンさんのこのけがだけ。子どもたちは1度もけがに見舞われることなく無事完走することが出来た。 22年前、一人で大陸横断した時は、タイヤのパンクは6回。しかし今回は3人で8回。「なかなか悪くない。まずまずの出来だ」とジョンさんは振り返る。
灼熱の暑さとの戦い 立ちはだかる険しい山道 8州を走行、恋しい日本食
出発前、事前の練習は特にしなかった。「父はオン・ザ・ジョブ・トレーニングだっていつも言っていました。ペダルをこぎ始めれば自然と慣れる。だから大丈夫だって」。そう話すのはジェニファーさん。
横断旅行はフロリダ州ジャクソンビルのビーチからスタートした。このルートにした理由は、山道はあるが最短コースであること。そしてフロリダ州のビーチからサンディエゴのパシフィック・オーシャン・ビーチまで、海で始まり、海で終わる旅にしたかったという。
ルイジアナ州を走行中、暑さと湿気と戦いながら自転車をこぐジェニファーさん(手前)とジョエルさん
最初の4日間はトレーニング期間にあて、1日30マイルの走行から開始。少しずつ距離を伸ばし、1日の平均走行距離は66〜69マイル。最長で1日111マイル走ったこともあった。
「フロリダ州ペンサコラに向かうまでの111マイルを走行した時が一番辛かった。旅の中で一番長い日のように感じました」とジョエルさんは振り返る。
しかし過酷な日々ばかりではなかった。47日間の旅のうち、40日間は自転車走行日、7日間は「休足日」と決め、立ち寄った街で観光も楽しんだ。
旅の最中、ジェニファーさんは6月22日に16歳の誕生日を迎えた。その時立ち寄ったニューオリンズで、ご当地名物のドーナッツ「ベニエ」で誕生日を祝い、生涯忘れられない思い出となった。
サンディエゴまで196マイルの標識。ゴールはまだまだ先だが険しい山道をひたすらこぐジェニファーさんとジョエルさん
3人は出発地フロリダからアラバマ、ミシシッピ、ルイジアナ、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナ州そして最終目的地サンディエゴがあるカリフォルニア州まで8州を通過。一番辛かったのは最後のカリフォルニア州だったと振り返る。 砂漠に加え立ちはだかる険しい山道、111度の灼熱の暑さとの戦い。辛さは頂点に達した。「でもゴールまであと少しと自分に言い聞かせ、ペダルをこぎ続けました」とジェニファーさんは語る。 さらに辛かったのは日本食が食べられなかったこと。カップラーメンや簡単な食事で済ませることも多かった道中、「日本食が恋しくてたまらなかった」と子どもたちは話す。
素晴らしい出会いの数々 「世界は捨てたもんじゃない!」
しかし辛さも吹き飛ぶうれしい出来事にもたくさん遭遇した。旅を始めるにあたりブログを開設。旅の様子を逐一綴っていった。すると、サイクリング愛好家や、ブログを見ていたたくさんの人々から応援のメッセージが届いた。時には旅先で3人が通過するのを待ち構え、声援を送ってくれる人々の姿もあった。
テキサス州オゾナで親子にゲストハウスを提供してくれたダイアナさん(左端から)と、ジェニファーさん、ジョエルさん。「彼女と食べたテキサスステーキの味は生涯忘れられません」と親子は話す
ある人は親子を気遣い食事に招待してくれたり、またある人は宿泊場所を提供し家族全員で歓待してくれたりと、行く先々でたくさんの親切な人々との出会いがあり、心温まる思い出は日ごとに増えていった。 ゴール地点に近づくと、大陸横断を成し遂げた達成感でジェニファーさんとジョエルさんの感動は最高潮に達した。ゴール地点には家族や友人およそ15人が3人の到着を待ち構えていた。 「ゴールした時は大陸横断できたのだから、これからどんな困難が立ちはだかっても越えられるような気がした。父が話してくれたことが身をもって感じられたのです」と子どもたちは話す。 「とても素晴らしい気分でした。家族で大陸横断を達成できたことを誇りに思います。もう2度と同じことはできないでしょう」とジョエルさんは振り返る。 また今回の旅を通して、子どもたちは今の世の中に対するある特別な思いが芽生えた。「2016年、世界を騒がしていたのはテロや銃撃事件、人種差別問題など暗いニュースばかり。でも今回の旅で知ったのは、世の中には良心に溢れた素晴らしい人々がたくさんいるということ。見ず知らずの私たちにも手を差し伸べ、親切にしてくれる人々とのたくさん出会いがありました。今回の旅を通して、『世界は決して悪いことばかりではない。捨てたもんじゃない』とあらためて感じたのです」 確かに16年は暗いニュースばかりが目立つ1年だったかもしれない。しかし17年はどんな年になるのだろう。世界が美しい思いやりで満たされ、彼らの思いが世界中に届くような1年になりますように―。
親子3人の大陸横断の旅はフェイスブックでも見ることができる。 https://www.facebook.com/2taad/
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