イチゴが丸ごとドーナツに:ドーナツマン
長年共に働くスタッフとナカノさん(中央)
イチゴが丸ごといくつも入ったドーナツを見たことがあるだろうか。この世界一食べるのが大変なドーナツは重さにして300グラム弱(約10オンス)。昼ご飯になるほどの特大イチゴドーナツを食べようと、他州からも客が訪れるグレンドーラ住民自慢の店「ドーナツマン」。ドーナツマンの46回目の誕生日5月23日を前に、オーナーの日系3世ジム・ナカノさんに話を聞いた。【麻生美重、写真も】
東西に延びる「ルート66」に面した「ドーナツマン」。店の北と南側には小高い丘がすぐ近くに見える。
1年でイチゴが手に入る季節だけ販売されるドーナツマンの看板メニュー。このイチゴドーナツを求めて平日の朝から常連客がひっきりなしに訪れる。ペンシルベニアから来たという友人を連れた家族連れも賑やかにジムさんの前を通り過ぎた。
新鮮な丸ごとイチゴのコンポートをいっぱいに詰めた「ドーナツマン」の看板ドーナツ
朝の8時前、店頭のイチゴドーナツは飛ぶように売れていく。ガラス張りの店内は通路以外は全てドーナツの棚と言えるほどに狭い。5人のスタッフはその小さな空間をスイスイ移動し、ドーナツ生地を切ったり揚げたり並べたりと動きに無駄がない。
店主のジムさんは広島県出身の祖父母の血を引き継いだ日系3世。ボイルハイツの出身で、2歳前だった大戦中にはアリゾナの日系人収容施設にいたこともあるという。戦後ヨーロッパを一人旅している列車の中で奥さんの美代子さんを見染め、アメリカへ招いて電撃結婚に至った。
当時大手小売り店に勤めていたナカノさんは、「温かいドーナツが食べたい」という美代子さんの一言でドーナツ屋開店を決意。バーバンクやパサデナが店舗の候補に上がる中、「近隣住人が好きだから」という理由でグレンドーラを選んだ。南北を小高い丘に挟まれた小さな街。70年代後半に「ルート66」と名称変更された東西の道、これが唯一の大通り。
「近くでイチゴ農家をしていたチェス・ナカノという常連客がイチゴを使ったドーナツを作らないかと誘ってきた。ベーカリーをしていた友人にイチゴグレーシーズを習い、74年に売り出した」
イチゴドーナツは瞬く間に店の看板メニューになった。丸ごとのイチゴが溢れている見た目のインパクトは相当なものだ。「イチゴが品薄な年でも確保してくれる仲間がいる」そのおかげで、細く切ったりペーストにしたりすることなく、丸ごと使用のこだわりを持ち続けられるという。
フレンチクルーラーのトレイを持ちポーズを決める売り場担当のジャズミンさん。各種あるフレンチクルーラーは、ふんわり、さっくりとした食感が人気
順風満帆だった70年代とは違い、80年代は売り上げが45%も落ちた。マクドナルドやバーガーキングなどのファストフード店が朝食メニューを始めたことで、ドーナツを買いに来る客が激減したのだ。「あの時期は苦しかったが90年代から少しずつ持ち直し、ネットの広がりやSNSの活用で、今が一番順調だよ」 長さ30センチほどもあるタイガーテールやさっくりと軽いフレンチクルーラー、オールドファッションなどの定番メニューも人気だ。 「日系社会にサポートしてもらった分、恩返しを続けていきたい」とナカノさんは語る。 コビナ在住のマイケル・オルーケさんは「付近の大学生や常連客に愛されている場所だ」と、自身も長く通うこの店について述べた。 週末は列に並ぶ覚悟で、ルート66沿いの「Donut Man」の看板を目指してドライブするのも楽しいだろう。
Donut Man
915 E.Route 66, Glendora CA 91740
(626)335-9111
www.thedonutmanca.com
店で2番目に人気の「タイガーテール」をリズミカルに切って並べるドーナツ職人
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