ビジネスワイド:世界を目指して1世紀【上】
6月に代表取締役会長に就任した味の素社の伊藤雅俊氏(味の素東京本社で撮影)
味の素代表取締役会長 伊藤雅俊氏
今からおよそ1世紀前にはすでに米国に進出し、現在約130カ国・地域で製品が販売されている味の素社。グローバル企業として成長を続けるその陰には、早くから世界に目を向け、未開の地に挑んだ創業者のフロンティア精神が息づいていた。創業者の志を今に受け継ぎ、6月に代表取締役会長に就任した伊藤雅俊氏に、米国での事業展開やグローバル企業のリーダーに求められる能力など話を聞いた。【取材=吉田純子】
米国での冷凍食品事業 20年までにナンバーワンに
今年4月に訪米し、「COSTCO」を視察した時の伊藤会長(右から2人目)(味の素社提供)
味の素社は昨年、米冷凍食品会社大手「ウィンザー社」を約8億ドル(840億円)で買収し、完全子会社化した。
「われわれが得意な日本食、アジア食の領域はこれから米国で伸びていくと思います」。
「質の高い冷凍食品」を目指し研究開発に取り組んできた同社は、その技術力とウィンザー社が持つ販売網を合わせることでさらなる事業拡大が望めると判断し、買収に至った。
味の素社の売上げは1兆円強(2015年3月期)。収益の主体は日本とASEAN諸国、南米だ。こうした国々ではリテール事業とよばれる味の素ブランドの商品で売上を伸ばしている。
一方、ヨーロッパやアメリカでは甘味料を扱うバルク事業が中心で、コスト競争が激しい。
米国は8割以上がバルク事業だが、今後はリテール事業も伸ばし、「日本の味の素ブランドを米国の消費者にも認知してもらえるよう活動していきたい」と意気込む。
かねてから米国でのリテール事業の拡大を目指していた同社は2000年に、当時オレゴン州ポートランドで日本人が経営していた会社を買収。過去5年、業績も良く、利益率は日本より良い。「これをコツコツ続けていくと1000億円規模になるかもしれない。しかし10年以上の歳月がかかってしまう」
チャンスがある会社を探していた時、ウィンザー社と出会った。ビジネスを広げていくためには工場が必要。ウィンザー社は全米に7つの工場があり幅広いプラットフォームを持つ。
2020年までの目標として同社は冷凍食品分野で全米ナンバーワンを目指している。「もともと米国で高いシェアをもつウィンザーを買収したことで、1000億円規模の目標も達成できると思っています」と伊藤会長は力を込める。
日本食は健康で、使用する油の量も少なく、素材の持ち味を生かした調理法のイメージが持たれている。そうしたイメージを米国人の食生活の中にさらに浸透させ、ブランドの普及にも努めていく。
20年前の北米出張時の伊藤会長(左)と現在、北米で冷凍食品事業を展開する同社子会社「味の素ウィンザー社」の会長の倉田晴夫氏(味の素社提供)
現在同社は食品だけでなく、アミノ酸技術を生かしたバイオ・ファイン、医・健康と幅広く事業を展開。美容分野ではアミノ酸を使ったオリジナルブランド化粧品「Jino(ジーノ)」があるほか、栄養、医療の面でもアミノ酸の持つ新たな価値を追求。医療用アミノ酸のシェアは世界1位だ。 米国ではコカ・コーラ社やペプシコ社のダイエット飲料やスポーツドリンクなどにも、アミノ酸を組み合わせて製造した同社の甘味料が含まれている。甘味料以外でも米国で馴染みのあるポテトチップスなどの菓子にも同社の調味料は使用されており、米国の消費者の目に見えないところでも同社の製品は使われている。
ラーメン事業が本格化 「米国人に合うように」
冷凍麺事業のひとつとして、今夏から冷凍ラーメン事業が本格化する。「マルちゃん」のブランドで親しまれ、麺作りのノウハウを持つ東洋水産とタッグを組み、北米で冷凍ラーメン事業に挑む。 「ラーメンといえども米国人に合うように作ります。作り方、食べ方、ボリューム、麺の長さ、食感に至るまで国によって違います。商品はどこの国で売るにも現地の人の好みに合うように作っているのです」 開発もすべて現地の従業員が行う。「当初、日本から来た社員が開発を進めていましたが、それでは現地の人の本当の好みが分かりません。われわれが勝手に作るのではなく、お客さまや現地のバイヤーの声を聞き、商品開発に生かす。このプロセスを徹底することで、より各国の現地の人に愛される味を目指しているのです」 商品開発を現地化にしてからは売上げも確実に伸びていった。【後編に続く】
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