ポータランチガス漏出事故:避難生活続く日系住民の怒り 【前編】
ポーターランチ在住30年以上の山口弘・淑子さん夫妻。ガス漏出事故を受け、現在は小東京の転居先で避難生活を送っている
頭痛や鼻血、山口弘・淑子さん夫妻の苦悩
「ガス会社は住民のことをまったく考えていません。住民が住めなくなるほどの環境災害を起こしておきながら、彼らの対応はあまりに勝手すぎます―」。日系コミュニティーのさまざまな場面で活躍を目にする機会も多い山口弘・淑子さん夫妻。2人はガス漏出事故が発生したポーターランチの住民だ。SoCalGas施設で漏出事故が発生した昨年10月23日以降、度重なる健康被害に悩まされ、現在は転居先で避難生活を送っている。山口さん夫妻に、事故発生からこれまでの生活の変化や苦労、ガス会社に対する憤りなど話を聞いた。【吉田純子、写真も】
山口夫妻はポーターランチに住み始めて30年以上になる。事故が起きるまで山の上にガス貯蔵施設があることなど知らなかったという。「山全体にいくつも貯蔵井戸があるなんて、30年以上住んでいてもそのような情報はまったく入ってきませんでした」
ポーターランチにガス会社の施設があることを知らなかった住民は驚くほど多い。貯蔵施設はポーターランチにそびえる山の裏手にあり、住民の居住エリアからは見えない位置にある。「ガス貯蔵施設があることを知らなかったので、事故発生当時、事態の深刻さが検討もつきませんでした」
通常のカメラで撮影した施設周辺の様子=昨年12月8日撮影(PorterRanchLawsuits提供)
しかしテレビで大量のガスが噴き出る映像を見た途端、目を疑った。「肉眼でガスを見ることはできませんから、こんなにも大量のガスがポーターランチ上空に流れ出ていると知り、愕然としました。まさかガス漏出事故がこんな身近で起きるなんて、思いもよりませんでした」
山口さん宅は施設から1マイル程離れた場所にある。ガスの臭いを感じることはないが、近隣住民からは風向きによって臭いがするとの声をよく耳にした。
体に異変が起きはじめたのは事故発生から数日経った頃だった。頻繁に鼻血が出るようになり、頭痛のほか朝息苦しさに襲われ目を覚ますことが多くなった。
同じ住宅地を赤外線カメラで見た時の様子。ピンク色に映しだされている部分がメタンガス。住宅街を覆うようにして漏出を続けていたが11日に暫定的に停止された=昨年12月8日撮影(PorterRanchLawsuits提供)
しばらくして弘さんは弁護団や医師、環境問題の専門家が開催した説明会に参加。そこで事の重大さをあらためて知る。「漏出している物質の中には内臓に入り込むと水銀のように体内に蓄積される有害物質もあり、長期的に見ると健康障害を引き起こす危険性があると聞きました」。
事故後、ガス会社からはメタンガスは有害ではないと記されたチラシが数回自宅に送られてきていたという。「しかし説明会で医師は流出物質には害があると言うではありませんか。住民はもはやガス会社の言うことは信用できないと思っています」
転居のきっかけとなったのは昨年のクリスマス。夫妻の長男がポーターランチの自宅に滞在した時のことだった。「息子が頭痛がして眠れない、ジョギングに出掛けてもすぐに帰宅し息苦しいと訴えたのです」。異変を察した長男はすぐに夫妻に転居を勧めた。
それから2人は今年1月5日から2月6日まで小東京のミヤコホテルに約1カ月間滞在。現在は友人の厚意で小東京にあるコンド「寺町」に転居し避難生活を送っている。
夫妻は日系パイオニアセンターでのボランティアなど日系社会のさまざまな活動に携わっている。こうした活動の多くが小東京で行われるため、転居先に小東京を選んだ。
転居費用はガス会社が負担。ホテルの場合は最大で1日250ドル。それに食費が1人1日45ドル支給される。コンドなどのレントハウスの場合は光熱費込みで1カ月7500ドル(1世帯)。
「1カ月近くホテルの一室で大人2人が生活するのは息苦しいものです」。91歳の弘さんにとって、住み慣れたわが家とは異なる環境は、精神的にも負担が大きかったという。(続く)
後編はこちらから
ポーターランチにあるSoCalGasの施設入り口。小さなゲートがあるだけで、山の奥にガス施設があることは想像がつきにくい
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