リトルサイゴン:ベトナム系移民の街【下】
リトルサイゴンにある仏教寺院「Chua Hue Quang Buddhist Temple」
オレンジ郡ウエストミンスター市にあるベトナム系移民の街「リトルサイゴン」。多くのベトナム系移民が同エリアに住み、数多くのベトナム料理店や日用品店などが軒を連ねる。今回はベトナム系米国人の全米最大規模のコミュニティーのリトルサイゴンを紹介する後編。【吉田純子、写真も】
リトルサイゴンの歴史やベトナムの文化について話をしてくれた同寺院の僧侶ウェイ・ダック氏
人口の80%が仏教徒のベトナムだけあり、ベトナム系移民の街リトルサイゴンにもいくつかの仏教寺院が点在するという。そのうちの、「Chua Hue Quang Buddhist Temple」(4918 Westminster Ave, Santa Ana)を尋ねた。
案内してくれたのは同寺院の僧侶ウェイ・ダック氏。同氏の話によると、1984年に同寺院の創設者ヒット・ミン・マ(Thich Minh Man)氏がこの地にベトナム系移民の祈りと憩いの場として同寺院を建立。当時の建物は今も残るが、2002年に新たな建物が建立された。
本堂には巨大な仏像のほかベトナムから運んできたという豪華な調度品が飾られている。仏像は真珠のパウダーで作られており、光が当たるたびに輝き、光沢感が美しい。床はイタリアから取り寄せた大理石で寺院は豪華絢爛。すべてベトナム人仏教徒からの寄付だという。
同寺院では年に数回祭が行われ、近隣に住む多くのベトナム系米国人が集まるという。一大イベントとなるのが、旧暦の正月を祝う祭「テト」。旧暦で祝うため毎年日にちが違うが、例年2月(旧暦の1月15日)に行われ、近郊に住むベトナム系移民はこの日、家族や友人らとともに寺院に集まる。毎年5千人近くの参拝客で賑わうという。参拝客は歌を歌って正月を祝福するとともに、故郷を思い、先祖に感謝の祈りを捧げる。
寺院の祭壇には春巻きなど供え物のベトナム料理が並べられている
8月(旧暦7月15日)になるとベトナムのお盆にあたる「ブラン祭(Vu Lan)」が行われる。先祖への供養を欠かさないベトナムでは、先祖があの世の生活でも、現世で使っていた生活用品が必要だと信じられおり、同祭では家や家具、車、バイク、自転車などの生活用品を紙で作り、燃やすことで先祖に祈りを捧げる。
9月(旧暦8月15日)には子どもたちの祭である中秋節(Tet Trong trang)が行われる。日本でも収穫に感謝し、月に団子を供え、月見をする中秋の名月があるが、ベトナムの中秋節は、子どもたちの祭として定着。この日、子どもたちは着飾って祭を祝い、大人たちは月餅を食べ、先祖を敬い、子孫繁栄を願うのだそうだ。
旧暦と現在われわれが使用する新暦とで混乱してしまいそうだが、ダック氏によると、ベトナム人の家庭には今も必ず旧暦のカレンダーが置いてあるという。
同寺院の奥には、当地にやってきたベトナム系移民が、亡くなった家族の写真を納める部屋がある。中にはベトナム戦争の戦死者や、米国に来たことのない故郷の地に眠る先祖の写真が壁一面に飾られており、参拝客は静かに手を合わせ、先祖の冥福を祈るのだそうだ。「体は亡くなっても、先祖の魂は生き続けているのです」とダック氏は話していた。
同寺院は年間を通して一般に解放されており、祭などの行事がない日にも参拝客が訪れている。
寺院中央には真珠パウダーで作られた巨大な仏像があり、連日参拝客が祈りにくる
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