ロサンゼルス郡:「敬老」調査に乗り出す【上】
動議を提出したスーパーバイザーのヒルダ・ソリス議長(写真=マリオ・レイエス)
ロサンゼルス郡の立法・行政で最高権力を持つ5人のスーパーバイザー(参事官)が、敬老4施設の売却プロセス、公共の福祉、居住者たちの安全に関して懸念があると判断し、郡の各当局に調査を命令することが決まった。すでにカリフォルニア州司法当局の承認を得て今年で2月4日に売却が完了したいま、行政管轄レベルが違う郡のスーパーバイザーたちが敬老売却事案に取り組もうとしている意図はどこにあるのか、当局者たちに取材した。【中西奈緒】
4月12日、ロサンゼルス郡のスーパーバイザーによる定例議会がダウンタウンにあるKenneth Hahn Hall of Administration, Board’s Hearing Room 381Bで行われた。さまざまな分野の議案が審議される中、午前10時半頃から、敬老4施設の売却に関する議案(51B)が取り上げられ、コミュニティーから10人が証言台に立った。
「スーパーバイザー」(The Board of Supervisors)とは、およそ1000万人の人口を持つロサンゼルス郡の「行政と立法の両方」を取り仕切ることができる5人の最高権力者。第1区から5区まで担当地区が分かれ、この5人で年間およそ280億ドルの予算を動かす。
今回の動議は小東京、ボイルハイツ、リンカーンハイツを含む第1区を担当するスーパーバイザー、ヒルダ・ソリス議長が中心となり、ガーデナの一部を含む第2区を担当するマーク・リドリー・トーマス副議長が賛同する形で提出され、可決されて正式議案となった。
その内容は、敬老4施設(引退者ホーム、看護ホーム、中間看護ホーム、サウスベイ看護ホーム)が不動産・開発を行う営利会社のパシフィカ社に売却されたことに関して、その売却プロセス、公共の福祉、居住者の安全の観点から見て大きな懸念があり、コミュニティーの多くの人たちも心配していることから、ロサンゼルス郡の「消費者ビジネス局」「郡評議会(法律顧問局)」「公衆衛生局」に調査を命令するというもの。
ロサンゼルス郡CEOのサチ・ハマイ氏(左)と話をする共同提案者のマーク・リドリー・トーマス副議長(右)(写真=マリオ・レイエス)
動議を提出したソリス議長は「敬老の600人以上の高齢者たちが、安心して幸せに暮らしていけるかどうか心配している。居住者たちの福祉を守るためロサンゼルス郡は今回の売却取引について調査し、コミュニティーのヘルスケアの需要をきちんと評価するために積極的に行動していく。情報が開示され、安全に暮らし、尊厳が守られる必要がある。彼らの運命が不動産会社の思惑に振り回されることのないようにしたい」と羅府新報の取材に答えた。
また、動議の共同提案者となったトーマス副議長は「コミュニティーからの申し立てを聞き、とても心配している。今回の売却で影響を受ける弱い立場に置かれる居住者たちを守ることができるよう行動を起こし、また、カマラ・ハリス州司法長官が正しい情報を基に売却の判断を下したのかどうかもきちんと確認していきたい」という。
ロサンゼルス郡が敬老売却に関わったのは今回が初めてではない。売却される前の1月29日、ソリス議長はハリス州司法長官に直接手紙を送っている。売却に強い懸念があると伝え、売却の延期と公聴会の開催を求めていた。ソリス議長はスーパーバイザーになる前、第1期オバマ政権で労働長官を務めていた人物。
ハリス長官に宛てた手紙は、「前労働長官として、特に、これから起こる可能性のあるスタッフの解雇や再雇用の影響について心配している。今まで働いてきた年数(年功権)が考慮されなかったり、解雇されたり、その結果、日本の文化を大切にしたケアが提供できなくなるかもしれない」と指摘していた。
また今回、動議がだされた背景には、3月24日に、ジュディー・チュウ下議(民主27区)がスーパーバイザー5人に調査を依頼する要請文を送ったことも影響している。その要請文にはマキシン・ウォータース下議(民主、43区)、グレイス・ナポリターノ下議(民主、32区)、マイク・ホンダ下議(民主、17区)、ドリス・マツイ下議(民主、6区)、ルシル・ロイバル・オラード下議(民主、40区)、トニー・ガーデナス下議(民主、29区)、ジャニス・ハーン下議(民主、44区)、マーク・タカイ(民主、ハワイ1区)が同意しサインしている。カリフォルニア選出以外の議員、マーク・タカイ氏が賛同したのは今回が初めてとなる。
こうした背景があり、ソリス議長とトーマス副議長が議案の草案を作成し、今回の審議につながった。(【中】はこちらから)
◎これまでの経緯と新しい組織
非営利団体「敬老シニアヘルスケア」がおよそ50年にわたって運営し、現在およそ600人の高齢者が暮らす敬老4施設(引退者ホーム、中間看護ホーム、看護ホーム、サウスベイ看護ホーム)は、2016年2月4日をもってエスクロー(商取引の際に第3者である金融機関を介して譲渡金額を決済する)が完了し、正式に売却が成立した。
2015年9月に州司法当局から売却の承認が下りたのち、この状況についてきちんと知らされていなかった日系コミュニティーから戦後まれに見る大きな反対運動が起きた。反対運動はコミュニティーの日系人と戦後移住者(新一世)からなる「敬老を守る会」が中心となって半年間にわたって展開。多くの政治家や公共の利益のための働きをするプロ・ボノ弁護士(無償)たちの援助を得て「売却の延期と公聴会の開催」を求めた法廷闘争の展開を図ったが、望んだ結果を得られずに売却が完了した。
売却先は不動産・開発を行う営利企業のパシフィカ社(Pacifica Companies LLC)で、買い取った敬老4施設の運営に関しては引退者ホームをノーススター社(Northstar Senior Living Inc)に、中間看護ホームと2つの看護ホームをアスペン社(Aspen Skilled Healthcare Inc)にそれぞれの運営を委託した。施設の名称は引退者ホームが「Sakura(桜) Gardens」、中間看護ホームが「Sakura Intermidiate Care Facility 」、リンカーンハイツの看護ホームが「Kei-Ai (敬愛)Los Angeles Healthcare Center」、サウスベイ看護ホームが「Kei-Ai South Bay Healthcare Center」に変わった。
非営利団体「敬老シニアヘルスケア」は4施設を売却後も事業の形態を変えて存続している。今回の売却金4100万ドルと今までの資産を元に健康プログラムなどを行い、今まで通り日系社会の高齢者たちのために貢献していくという。現在のところ、CEOのショーン三宅氏、理事長のゲリー川口氏など経営陣や理事は売却前のまま残っている。現在 420 East Third Street, Suite 1000 Los Angeles, CA 90013 のパシフィック・コマース・バンクビルにオフィスを構えている(http://www.keiro.org/)。
「敬老を守る会」は現在、州政府の認可を受けた非営利団体「高齢者を守る会 (Koreisha Senior Care & Advocacy)」となり、再スタートを切った。売却後も4施設で暮らす高齢者たちが安らかな余生を過すことを保障することが第一の使命だとし、同時に、日系社会の高齢化が進む中、十分な高齢者ケアを提供することができる施設の確保や、新しい施設を建設することも視野に入れている。
また、非営利団体「敬老シニアヘルスケア」の今までの問題点やその現在への影響、今回の売却金の使われ方、州司法当局が勧告した条件通りに4施設がきちんと運営されているかなどを監視し、州行政機関に報告する役割も担っていくという。
3月26日の会議で決まった新執行役員は以下の通り。新会長:ジョン加治、副会長:松元健、池田啓子、会計:レックス浜野、理事:トレイシー今村、堀尾誠治、ブラッドリー松田、ジョン金井(敬称略)。
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