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Writer's pictureRafu Shimpo

億万長者になりそこなった男

 日が落ちてから買い忘れたものがあり、近くのセブンイレブンに行った時のことである。  ドアを開けて入ると客と店員が言い争っている。といってもほとんどが客の怒鳴り声で、店員は「すみません」を繰り返すばかり。  「売れないことはないだろう。スイッチを入れればいいだけじゃないか。この間も俺が来たとき同じことをやっただろう」  客が毒づきながら帰った後、顔見知りの店員に、何があったのかと尋ねたところ、ロット・ゲームの販売をいつもより早く終了したところ、客がくじを売らないことに文句をつけたのだという。  客にも言い分があって、「今日は何か良い事がありそうで、ロットを買えば当たる気がする。せっかく運がついているのに、俺に当りくじを売らなかった」という訳だ。  当るか当らぬか分からない確率の低いロットでも、「売れない」と言われた途端に「ひょっとしたら…」と頭の中に億万長者の妄想が広がり、七色の虹が架かったのだろう。コンピューターの中から飛び出してくる次のくじはきっと1億ドルの当りくじに違いなかったのだ。  なんと不運な男だろう。たった10分、店に来るのが遅かったばっかりに、夢を逃したのだ。  思わずこみ上げてくる笑いをこらえて、どうして早く販売機を閉めたのかと聞くと、途端に声を落とした店員は、「物騒なんですよ。人手が少ないときに客が立て込んできて、ロットくじの販売に手を取られていると、万引きに目が行き届かなくていろんなものを盗まれて…。ロットのくじで店に入るのは1ドルで1セント、とても商売になりません。他にお客がいるのに、万引きが多いからなんて大きな声で釈明も出来ないし…。ロットは、ついでに他のものも買ってもらえるから、サービスみたいなもので」  万引きを見つけたら警察に通報するんでしょうと尋ねると、「一応通報はしますがね、ポリスが来るまでに1時間はかかるんですよ。もっと早く来られないのかと言うと、手が足りなくて忙しいんだそうですよ」  この店から、最近出来たばかりの警察署まで、私の脚で歩いて3分である。【川口加代子】

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