初夏の茶作り
介護のため帰省している高知は今、新緑の中にある。このところ抜けるような青空が続き、とりわけ柿の梢の緑が美しい。 と、義母が、「柿の葉茶を作る」と言い出した。柿に限らず、ドクダミ、青シソ、クコ…と、義母は何十年も自家製の茶葉をシアトルまで送ってくれていた。これまで飲むばかりだった私は、こうして義母の茶作りを手伝うことになった。 剪定で落とした柿の枝を抱えて座り込み、1枚ずつ葉を摘みとる。いつ果てるとも知れないように思えた作業も、小一時間ほど続けると葉は3杯のバケツに山盛りとなった。翌朝、空が晴れあがっているのを確認すると、義母はぐらぐらと湯を沸かし、義父は茶葉を干すために畳半畳ほどの竹ザルのような物を2枚出してきた。エビラといい、かつて養蚕をしていた時に使っていたのだという。 まず、葉を少量ずつ熱湯にくぐらせる。義母に言わせると「色が変わる程度に」。湯から引き揚げた葉の塊りをまな板の上で出来るだけほぐし、5ミリ程度の幅で刻むと、刻み終えた葉を次々と義父のもとへ。義父は葉を、陽当たりの良い場所に置いたエビラの上に要領良く広げていった。 「重なっていると、乾きが悪い。乾きが悪いと、腐ってしまう」と、葉に塊りがあれば一つひとつを丁寧に広げるのは、これまでの何度かの失敗を省みてのことらしい。太陽の下の葉は、乾燥するに従って良い香りがして来た。沸かすと、ほんのり甘い柿茶の出来上がりだ。 柿の葉茶作りの数日後、義母が「明日は十薬を取るから」。ドクダミのことだ。初夏の陽射しの下、白い花をつけたドクダミを懸命に刈っていると汗がしたたる。刈り取ったドクダミは少量ずつ紐できつく束ね、束ねたまま水洗いした後は、物干し竿にズラリと掛けて、これもしっかりと乾燥させる。 柿の葉茶はビタミンCが豊富だとか。また、ドクダミ茶は体にとても良いのだという。わが家の子供たちに海を越えて届けられた「おばあちゃんのお茶」は、何より祖父母のいっぱいの愛情と晴れ上がった高知の空とで出来ていたことを、今しみじみと感じている。【楠瀬明子】
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