夢を追う渡嘉敷来夢選手:世界の頂点目指し、新天地で奮戦
いつもニコニコの「来夢スマイル」
今季からシアトル・ストームに加入し、日本人3人目のWNBA選手となった渡嘉敷来夢(とかしき・らむ)選手。米国のプレースタイルに適応し、先発メンバーの座を獲得した。追い求める夢を次々にかなえ、念願の五輪出場も手中に収めようとしている。世界の頂点を目指す戦いは、序曲に過ぎないとし、「常に上を目指し、もっと強くなる」と、志を高く持つ若き24歳の新天地での奮戦を追った。【永田潤、写真も】
シュートを打つ渡嘉敷
ドリブルで敵陣に攻め込む渡嘉敷(左)
日本でプレーし続ければトップに君臨できたが、世界最高峰のリーグへ挑戦した。「自分だけでなく、日本のために何かしらプラスになると思った。このリーグで、日本人でも通用することを証明したかった」と、海を渡った。厳しい環境に対する率直な感想を「逃げ道がない。きつい時も、辛い時も、自分で処理するしかない。でも自分との戦いはいい経験で、成長できる環境に身を置いて、成長を実感できることがうれしい」と充実した日々を送る。
渡嘉敷選手によると、WNBAではすべてのプレーに関し精度が高いという。「日本と違って高さがあるので簡単に点を取ることができないので、すごくやりがいを感じる。速さというより、どの選手もパワー、強さがある。最初はその凄さに圧倒されたけど慣れてきて、試合をこなすうちにタフになった」と話す。恵まれた体格と、抜群の身体能力を生かし、先発メンバーに選ばれるまで信頼を勝ち取った。
ブロックショットで得点を阻む渡嘉敷(左)
米選手と対戦し「すごくタフな状況でも、一人ひとりの選手は『シュートを決めてやる』という気持ちがすごく強く、ルーズボール1つにしてもしっかりと取り、ボールを奪うという執着心が強い」。憧れを抱く、居並ぶスター選手と戦い「マッチアップではなくても、ベンチからプレーを見ているだけでも、オーラがある。『この人たちはすごいんだなと感じる』」と、刺激を受けている。プレーでの技術・精神面の向上を実感するが「自分はまだまだ伸びると思っている。ここ(WNBA挑戦)では満足していないので、もっと上の世界を目指し、もっと強くなりたい」と、常に目標を高く定める。 WNBAは2日間の連戦があったり、飛行機で長距離移動し遠征先に到着後すぐに試合という初めての経験や時差に戸惑ったが「タフでないとやってられない。それに慣れた自分が怖い」と適応力が、結果として表れている。「ずっと不安」という英会話は「話すことは、まだまだ」というものの「だいぶ聴き取れるようになり、うれしい」と喜ぶ。
ジャンプシュートを放つ渡嘉敷(中央)
WNBA挑戦は、夢の始まり 「より上の世界を目指す」 日本時代は、周りから「アメリカで挑戦した方がいいよ」とよく言われ、高校時代の恩師井上眞一監督からは「日本代表を意識しろ。お前はWNBAに行くんだ」と、目標を高く持つことを叩き込まれた。渡米後に分かったことは「自分の(WNBAで戦う強い)気持ちが伴っていないと、うまくプレーできないことが、アメリカに来てすごく感じた」。自分に言い聞かせていることは、負けず嫌いの性分から「誰が何と言おうと、自分の納得のいくように、自分らしくプレーすること。それはアメリカに来ても変えることはできない」と、信念を貫く。 自身の名前は「来夢」。だが「夢はやって来るものではなく、追い求めるものなので、より上の世界を目指して頑張っている」「WNBAでのプレーは、まだ夢の始まりに過ぎず、小さい夢の1つ」と言い切り「活躍してこそ夢をかなえたと思う。毎シーズン成長し、相手チームの選手、自分の監督、ファンの人に成長した姿を見せ続けたい」
「ラムは、欠かせない選手」 ストームのボウセック監督 ストームのジェニー・ボウセック監督は、渡嘉敷選手について「初めて経験する英語を話す難しい環境の中で、いつもニコニコ笑い、チームに溶け込み、シーズンを楽しんでいる」と話す。 プレーを評しては「積極性があり、とても賢く、コートで輝いている。レベルの高い選手に揉まれ、技術を吸収して成長を遂げている」と語る。「長身を生かし、WNBAにうまく順応している。ラムは、チームのロースターには欠かすことのできない選手だ」と絶大の信頼を寄せる。
ブロックをかわし、進撃する渡嘉敷(左)
念願の五輪へ、あと一歩 「絶対にリオに出たい」 日の丸を背負って戦う 渡嘉敷選手は現在、ブラジル・リオデジャネイロ五輪予選(中国・武漢)を戦っている。エースとして日本代表チームをけん引し、念願の五輪出場は、あと一歩に迫っている。 ストームのチームメートで五輪3大会で金メダルを獲得したスー・バード選手からは「オリンピックには、選手として絶対に出るべきだ」と教えられ、士気はさらに高まった。 北京五輪予選は代表から漏れた。次のロンドン五輪予選には負傷して出場できず「テレビで試合を見た時に、日本代表の選手としてコートに立てないのは自分の責任だった」と痛感。日の丸を背負って戦う使命感は、人一倍強い。 母国開催の東京五輪については「このまま順調に行って、ちゃんと自分が日本代表に選ばれれば、必然的に出れると思う。その前に絶対にリオに出たい。そこでオリンピックというものがどういうものか、肌で感じて、東京五輪に向けてやっていきたい」
渡嘉敷来夢 1991年生まれ、24歳。東京都出身。192センチ、77キロ。12歳でバスケットボールを始める。桜花学園高からJX—ENEOSサンフラワーズに入団し、昨年まで5年間プレーした。日本でダンクシュートをする初の女子選手。
渡嘉敷(左)は、長身を生かしリバウンドを重ねる
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