州司法当局:敬老4施設の売買承認
ボイルハイツにある敬老引退者ホームと、手入れが行き届いた美しい日本庭園
46年余りにわたり日系社会の高齢者たちを支え、また、老後の心のよりどころとなってきた敬老ホーム4施設の売却先が決まり、州司法当局からの承認が正式に下りた。売却先は全米で高齢者施設を運営する会社「パシフィカ・カンパニー社」。この決定を受け、入居者やコミュニティーから先行き不安の声もあり、敬老サイドはこれからあらためて詳しい説明を求められることになりそうだ。【中西奈緒、写真も】
初代理事長のフレッド和田氏(左)とジョージ荒谷氏(右)
非営利団体の「敬老シニアヘルスケア」は過去およそ50年間にわたり、日系の高齢者のためのホーム4施設(ボイルハイツにある敬老引退者ホーム、敬老中間看護施設、リンカーンハイツにある敬老看護ホーム、ガーデナ市にあるサウスベイ敬老看護ホーム)を運営してきて、いまやカリフォルニア州では唯一の日系の高齢者に向けた総合施設だとされている。
日系人が一生懸命に働いてリタイアしたあと、残りの人生を安心して暮らせるようにという思いから、フレッド和田、ジョージ荒谷、ジェームズ三森氏らが日米の両国を奔走して寄付金を集め、そして、日系コミュニティーが協力してやっとの思いで作り上げた施設で、日本の食事やアクティビティーなど、日本の文化や伝統を大切にしてきたきめ細かいサービスが特徴。非営利団体であることから、日米の団体や個人からの多額の寄付金、カリフォルニア州からの援助、地域のボランティアのメンバーなどの多くの人たちのサポートで成り立ってきた。
今回の州司法当局の承認をうけ、代表で最高経営責任者のショーン・ミヤケ氏は書面で「とても嬉しいことだ。これで変化の激しいヘルスケア市場についていくことができる」と述べ、「パシフィカ・カンパニー社」の高齢者住宅ディレクターのアダム・バンデル氏は「敬老が今まで行ってきた日本の文化や伝統を大切にするアプローチは素晴らしいことで、私たちはその取り組みをこれからもサポートしたい」と伝え、また、敬老のボードメンバーのチェアマンを務めるゲリー・カワグチ氏も「今回の承認は喜ばしいことで、Community Advisory Boardを創設してパシフィカに助言ができるというのはありがたい」と述べている。 関係者によると、今回の決定は7年ほど前から始めたリサーチの結果によるという。日本式ケアを求める日系1世、2世の減少、これからの3世、4世の世代とのニーズの違いと変化、オバマケアの影響によってもたらされるであろう収入減や、カリフォルニア州からの予算削減の可能性など、現在の経営状況は大丈夫だが、長期的な運営を考えた上で4つの施設の売却を決定したのだという。 その売却方針が表面化した当初は、全米で施設やクリニックを運営しているエンザイン・グループへの売却が検討されていたが、州司法当局の承認が得られずに売却問題は一時、宙に浮いた形となっていた。 今回売却先となったのは、全米14州51ヵ所(このうちカリフォルニア州内は20ヵ所)で高齢者施設を経営、運営している営利団体の「パシフィカ・カンパニー社」(Pacifica Companies LLC)。2016年の初頭にはエスクローの手続きが完了する予定になっているという。
127の部屋がある敬老引退者ホーム
州司法当局からの承認の書類によると、「今後5年間」は4つの施設が現在の状況のまま、ベット数や保険の適用の条件、日本文化伝統を重んじたサービスを持って運営されることなどが条件として示されている。しかし、5年後については今は何も決まっていない。 ボードメンバーのチェアマン、ゲリー・カワグチ氏は羅府新報のインタビューに「州司法当局からの承認を得て、あくまで、これからたくさんある手続きのうちのひとつが前に進んだだけにすぎない。敬老側とパシフィカ側は当局からさまざまな条件が書かれた書類をもらったばかりで、それを見直しているところ。だからこれからまだ変更がでてくるかもしれない。まだ完全にすべてが決まったわけではない」と説明している。
90ベッドが用意されている中間看護施設
引退者ホームで暮らす女性は「今日初めてこのニュースを知って驚いた。すでに毎年入居費が値上がりしているのに、これから営利団体が運営したら、さらに値段が上がるのではないかと思ってとても心配」と話していた。
食堂で夕食の準備をしていた日系や南米系の従業員たちは「今日、マネジャーから話を聞いた。これからどうなるのか分からないので心配だ」と。
中間看護施設や敬老看護ホームで20年以上にわたり臨床心理士として高齢者を見てきたDr.ケイコ・イケダ氏は「敬老ホームの近くの別の高齢者施設、ホレンべック・パームスは非営利組織なのにとてもうまくやっているようだ。いま敬老ホームが今後どうなるか分からなくて不安でこちらに人が流れていっている。どうして敬老にはできないのだろうか」と疑問を述べた。
また、20年以上ボランティアとして踊りを披露したり、また、総額500万円以上の寄付をしてきたメイキャップアーチストのカオリ・ナラ・ターナーさんは「アメリカ人が経営者となって、これからもきめ細やかなサービスができるのか心配。決まったことは仕方がないから、これからどうしていくのがいいのか、今まで関わってきたコミュニティーメンバーとして提案していくのが大切。みんなで集めたお金で運営してきたわけだから、いくらで売られて、今後そのお金がどう使われるのかきちんとオープンにしていくべき」としている。
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