敬老問題:州司法当局が「守る会」と会合
州司法省のロサンゼルス事務所の正面入り口。カマラ・ハリス長官の写真が掲示されている(写真=中西奈緒)
「あきらめるのはまだ早い。まだ終わってはいない」―希望ある雰囲気で締めくくられたアラタニ劇場での大集会。その余韻が冷める間もなく、マキシン・ウォータース連邦下議のサポートの下、州司法当局と「敬老を守る会」との2時間半におよぶ面会が24日、実現した。【中西奈緒、モニエ中地美亜】
◎コミュニティーの勢い
誰がこんな展開を予想しただろうか。たった4人で始まった「守る会」はこの3か月半で大きく成長し、メンバーは80人を超え、集まった署名は1万5千にも達する。日系社会の個々人のネットワークから、州や連邦の政治家たちの協力も得るようになり、売却延期と公聴会の開催を目指してカマラ・ハリス州司法長官に書状が提出された。
9月から10月にかけて行われたメソジスト合同教会での2回の集会や、その後、敬老側が開催した説明会では、人々は心配、不安、混乱、そして怒りに満ち溢れているようだった。しかし、11月23日にアラタニ劇場での大集会では政治家たちの力強いスピーチも助け、「法的に取り消すことができない」という当局側、「説明責任は十分に果たした」という敬老側と最後まで戦い「正しくないことを追及していく」という強い姿勢をあらためて打ち出した。
◎政治家たちのサポート
ガーデナを選挙区に持つ民主党のマキシン・ウォータース連邦下議(写真=マリオ・レイエス)
特に目立った動きをしている3人は、カマラ・ハリス州司法長官に最初に書状を提出し、ガーデナ地区を選挙区として州議会の高齢者と長期看護委員会の副議長を務めるデビッド・ハドレー州下議(共和)。そして、アジアン・アメリカン・パシフィック・コーカス(アジア太平洋系議員連盟・Asian American Pacific Causus)の理事長を務めるジュディ・チュウ連邦下議(民主)は、その他15人の民主党連邦下議の署名を得て書状を提出。そして、書状にサインをした一人であり同じくコーカスメンバーのマキシン・ウォータース連邦下議(民主)。ガーデナを選挙区に持つベテランの黒人女性政治家だ。
こういった、政治家たちの積極的な動きに対して、敬老理事会のゲリー川口理事長は司法長官宛の書状を取り消すように彼らに手紙を送っている。その手紙には「こちらの言い分をまったく聞かずに書状を書いたことに失望している」という文面だが、チュウ氏もウォータース氏もその書状を取り消すつもりはないとコメントしている。チュウ氏は再び書状を送る予定であるとし、ハワイや他の州の政治家たちの協力を取り付けるとも話している。
また、16人の連邦議員が連名でサインをした書状の返信として州司法当局から送られた手紙に対して、チュウ氏は「とても失礼である」とコメントしている。短い文章で「法的に取り消すことができない」という旨がかかれた手紙に、「守る会」のチャールズ井川氏に宛てた手紙がただ添付されて送られてきたからだ。
◎ウォータース氏とハリス氏
州選出の連邦上院議員に民主党から立候補を表明しているカマラ・ハリス州司法長官
とりわけ今、マキシン・ウォータース氏のサポートが状況を動かす原動力となっているようだ。11月9日、「守る会」の池田啓子氏、入江健二氏、松元健氏と、ウォータース氏とそのご主人、事務所のスタッフとの間でミーティングが開かれた。ウォータース氏は現状について話を聞き、サポートをしていくことを決めたのだという。そして、彼女はすぐにカマラ・ハリス州司法長官に直接電話をかけ「公聴会が開かれなかったことは遺憾だ」ということなどを伝えたことで、24日(火)に当局との面会が開催される運びとなった。 そのハリス州司法長官(51)は現在、来年の連邦上院議員選に民主党から立候補を表明し、選挙活動の真っただ中にいる。彼女はジャマイカ系黒人(父親)とインド人(母親)の血を引きつぎ、オバマ大統領とも親しく、民主党の有力候補とされている。
一方、ウォータース氏(77)は政治家として30年以上のキャリアを持つベテランの民主党選出の連邦下院議員で、アメリカ議会の中でもっとも年長の黒人の女性政治家。彼女はアジアン・アメリカン・パシフィック・コーカス(アジア太平洋系議員連盟)のメンバーであるだけでなく、ブラック・コーカス(黒人議員連盟)のメンバーでもあり、前理事長という経歴を持つ。今回のことから、ウォータース氏がハリス氏に直接働きかけることができる人物であるということ、また、議員としての経験のないハリス氏が、その世界のベテランのウォータース氏の存在を無視することができない状況も伺える。
◎州司法当局との会合
ウォータース氏がハリス氏に働きかけたことによって実現した州司法当局と「守る会」との会合は24日(火)午後1時、ロサンゼルスにある州司法当局の事務所で行われた。「守る会」側からはチャールズ井川氏、ジョン・カジ氏、池田啓子氏、松元健氏、トレーシー・イマムラ氏、レイ・ハマグチ氏、レックス・ハマノ氏、ロン・ヒラノ氏、そして、ウォータース氏とその2人のスタッフが参加した。州司法当局からはロサンゼルス・オフィスのタニア・イバネス上位補佐官、サンフランシスコ・オフィスのスージー・ロフタス法律顧問、マーク・ブレッカー首席補佐官、そして、サクラメント・オフィスのロバート・サムナー副司法長官の4人が出迎えた。
面会では「守る会」のメンバーたちが、敬老が当局に提出し審査された2000ページの資料の問題点などについて、それぞれのメンバーが独自に行った調査結果が報告され、それを基に話が進められたという。メンバーそれぞれがなぜ今回の売却に反対するのかを説明し、あらためて、売却の延期と公聴会の開催を要求したという。
当局の担当者たちは「法的に取り消すことはできない」という立場を引き続きもちながらも、じっくりと話を聞いてメモを取り、話し合いは2時間半にも及んだという。
また、この会合では敬老側が提出して公聴会が回避された理由にもなっている「62回のミーティング」に関して、当局に補足書類が提出されていることが分かり、「守る会」はその提示を求めたという。
チャールズ井川代表は面会後「当局側は『今日聞いたことを、何をどういう風に受け取ったかもう一度吟味したうえであらためて返信をします』ということで12月の第1週には、その補足書類の開示とともに、返事がなされる予定」だと話し、「今後の活動内容はこの返信の内容次第だが、守る会として譲歩することはありえない」とした。
「法的に取り消すことができない」という姿勢を貫く当局だが、守る会は、提出された資料の問題点を指摘し、また、公開されていない補足書類があることも分かった。また、ウォータース氏とハリス氏、両者の関係性の中で起こりうる力関係や政治的な駆け引きがどう当局の判断に影響を与え、売却延期と公聴会開催に結びついていくのか、注目されている。
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