敬老売却問題:初のコミュニティー集会【上】
(左から)パネリストの松本健医師、臨床心理士の池田啓子氏、ロナルド重松医師、日本語通訳を務めた瀬尾真砂乃氏
敬老の売却問題をめぐる初めてのコミュニティー集会が9月29日夜、約150人が集まり開かれた。長く敬老に関わってきたパネリストの臨床心理士や医師たち、そして会場からさまざまな意見が飛び交い、敬老側へ改めて説明を求める声をあらわにした。フロア席には、元州下院議員のウォーレン古谷氏、ボードメンバーのゲリー川口理事長の姿もあり発言をした。声を上げはじめた日系社会、そのムーブメントはこれからどこまで力を持ち、敬老の行く末に影響を与えることができるのか。2回シリーズでリポートする。【中西奈緒(写真も)、モニエ中地美亜】
集会開始の予定時刻の午後6時には、会場のセンテナリー合同メソジスト教会の駐車場は満杯になり、車があふれた。6時15分に始まった集会にはおよそ150人が詰めかけ、この問題への関心の高さを示すこととなった。初めに、主催者を代表して社会学者のチャールズ井川氏が今回の売却にブレーキをかけようと、州司法当局に提出する陳情書(10月15日(木)締め切り)の記入について説明をし、続いて中川牧師と地域活動家のモー西田氏がそれぞれ話をした。 そして、引退者ホームの家族、長く敬老に関わってきた医師たちや臨床心理士からなるパネリストからのスピーチ、そのあとQ&Aセッションが行われた。今回参加した医者たち、松本健氏、ロナルド重松氏、入江健司氏、スミ瓦谷氏、パトリック高橋氏は敬老の3分の2の患者を長年見ている。
◎パネリストたちの声
引退者ホーム居住者の家族、安井正子氏は「居住者に対して敬老から何か圧力がかかるのではないかというという恐れが十分にあると思うので、家族としては本当はこの場には出たくなかった」と素直に気持ちを初めに伝えた。去年の12月に参加した敬老主催の家族集会のことについて「十分な説明はなされず、オバマケアのために売らなくてはいけない、長いことかけて調査をしてきたけれど、これはベストの方法だということの繰り返し。いくらの寄付があって、いくらを何に使って、いくら足りないからもうどうしようもなくて売らざるを得ないとかそういう数字に基づいたは一切出なかった。だからいまだにどうして施設を売らなくてはならないのか分からない」と話した。
また、「居住者は高齢であるため集中して理解することが難しかったり、言葉の壁もある。すべてのコミュニケーションは英語が主なために、そういう難しいものを読む気力も体力も難しい。敬老側はいつも説明は十分にしている、何かあればHPを見てほしいというけれど、HPを見られる居住者というのはほんの一部分でしかない。家族にしてもどれくらいの方がHPを見てどこまでついて行っているかは疑問。日本語しかできない入居者はかなり不安を抱えていて、すでに英語を話す人の方にサービスが向いているので、これから営利団体に売られたらもっと英語が分かる人に対するサービスに重きが置かれることは十分に予想できる。日本語しかできない人は不安を抱えながらどう対処していいのかわからないというのが現状。敬老に何か訴えるわけにもいかないし、どこに不安を言うのか、五里霧中である。敬老は今後、高齢社会の教育のためにいろいろすると言っているけれど、現実に老いて行く人をケアするための施設の方がもっと必要ではないかと思う。教育では現実的に自分ひとりで生活できない人のケアをすることはできない」との思いを伝えた。
医者として33年、敬老看護ホームの高齢者たちのケアをしている松本健医師
医者として33年間、敬老看護ホームの高齢者たちのケアをしている松本健医師は「日本人はどちらかというと不満を言わないで、コンフリクトにならないようにする文化があるために、こういうことになっているけれど、患者のみなさんは自分が見捨てられた気分で、心配でふさぎ込み、どうしていいか分からないと話している。そして敬老に対する信頼がだんだん薄れてきて、なくなってきている」と話し、「CEOのショーンもほかのボードメンバーのことも何人か個人的に知っていていい人たち、よく働いてくれていると思うから批判はしにくいけれど」と前置きをしながらも「問題は売却のことでどうして売らないとだめなのか分からない、私は自分の患者たちに説明をしなくてはなない。特に引退者ホームはオバマケアとは何の関係もない。敬老は全米でもユニークな施設で、カリフォルニア州以外からも患者が集まってきている。食事やアクティビティーなどが魅力で、このために来ている」「経営を続けるためにコンサルタントを雇うこともできる」「理想的には今回の売却がなくなるといいと思う、でもそもそも何で売るのかが分からない」などと話した。
臨床心理士として20年以上、敬老の高齢者を見てきている池田啓子氏
20年以上、臨床心理士として敬老の高齢者を見ている池田啓子氏は「過去2年間、いろんな人たちと話をしてきた。入居者、その家族、ボランティアたち。しかし、これで良かったと思っている人は誰もいない。5年後のメディケア(連邦政府からの援助)、メディカル(州からの援助)の適用はどうなってしまうのだろうか。敬老入居者の3分の2はその両方に頼っている。もしこの適用がなくなってしまうと、看護ホームだと月の自己負担が6540から1万1700ドル、中間看護ホームだと月に5040ドルの負担になり、これだけ毎月払える人はいないだろう。パシフィカ社は営利団体だから5年後、利益は上がらないという理由でメディケア、メディカルの患者への適用をやめてしまうかもしれない。それはあまりにも心配だ」とヘルスケアの観点から話をした。松本医師とロナルド重松医師は、「ヘルスケア市場全体がオバマケアの影響を受けている状況で、その新しい状況に適用させていかなくてはならない。しかし、この新しい政策だけが、施設を売却する十分な理由にはならない」と口をそろえた。
重松医師は「敬老はコミュニティーのもの、あなたたちのものだ。敬老は日系コミュニティーのためにできてコミュニティーによって支えられてきた大切なもので、たくさんのお金が日本からも届いた。だれも売却すると思ってお金を寄付していない」「敬老がないというのは信じられない、医師として最後まで高齢者たちのお世話をするのが僕の仕事だ。まだ僕の仕事は終わってはいない」と熱く参加者に語りかけた。
入江健二医師は「十分に説明していると言っているけれど、売るかどうかの判断はボードではなくてコミュニティーによって決められるべきだ」と意見を述べ、「僕はあと5年で80歳になる。僕が入居者になるかもしれない。僕もメディカル、メディケアの両方をもらって、メディメディの患者になるだろう。オバマケアになると、遅かれ早かれ、メディメディの患者へのケアを中止するのではないかと思う。そしたらホームから追い出されてしまうのではないか。ショーン三宅氏は売却をすると決めてから、これしか方法がないと言って話を持ってきた。僕は今後、ファンシーなケアはなにもいらない、基本的なことだけで十分。ただ、追い出されるという心配を抱えながら残りの人生を生きて行くことだけはしたくない」と訴えた。(元州下院議員のウォーレン古谷氏、ボードメンバーのゲリー川口理事長、そして参加者との対話の様子は次回の【下】に掲載)
敬老の売却問題について話しあうため、およそ150人が参加した初めてのコミュニティー集会
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