新星ワインカントリー:ローダイ(カリフォルニア)①
「Lucas Winery」のブドウ畑でのテイスティング
北カリフォルニアのワインカントリーといえば、王道のナパやソノマ以外の新興地が穴場として注目されるようになって久しい。けれど、「ローダイ」(Lodi)といわれると、まだ首をかしげる人がいるかもしれない。
「Lucas Winery」のブドウ畑でジンファンデルを試飲
州都サクラメントから南へ、車で約30分。サンフランシスコからは、東へ約1時間半。サンホアキンバレーの北部に位置するローダイには、十万エーカーものワイン用ブドウ畑が広がる。750以上の生産者がさまざまな品種を育て、ナパやソノマの有名メーカーなどに提供している。ローダイはいわば、カリフォルニアのワイン産業を陰で支えるサプライヤーとして栄えてきた。 しかし、ワインそのものをつくるプロデューサーとしては実績が少なく、なかなか評価してもらえなかった。というのも、ローダイのブドウは大量生産で比較的安いワインに使われることが多かったからだ。ちょっと気取ったスノッブな層からは、「ローダイのワイン」というだけで、「安い=悪い」という偏見をもたれ、見下されてしまった。
「安い悪い」の偏見払拭
風向きが大きく変わったのは、2015年だ。ワイン業界専門誌が、ローダイを「最も注目すべきワインカントリー」として紹介したことで、一気に関心が集まった。
ローダイのワインを有名にした立役者で、「マイケル・デイビッド・ワイナリー」の共同オーナー、マイケル・フィリップスさんは、「ここまでくるのに15年はかかりました」と話す。
「Michael David Winery」でのテイスティング
「以前のローダイは、評判が悪いというより、評判すら存在しなかったのです。『質の悪いワイン』というレッテルを貼られ、テイスティングにも来てもらえない。ローカルのマーケットに売るだけで、精いっぱいでした」 今では、カナダやスウェーデンにも輸出している。「どうすれば納得のいくワインができるのか、試行錯誤の繰り返しで、2度ほど真剣にやめようと思いましたが、続けてきてよかったです」と笑顔で振り返った。 「ルーカス・ワイナリー」を経営するデイビッド・ルーカスさんとヘザー・パイルさん夫妻は、早くからローダイの可能性を信じてきたワインメーカーだ。ワイナリーを開いた1978年当時は、「目の前の道はバッファローが通るぐらいで、誰もローダイに来てくれませんでした」と言う。 つくったワインは、カリフォルニアのほかの地域や中西部に売っていた。今は、メンバーとテイスティングに来る人にしか売っていない。それぐらい需要が増えて、対応に忙しくなったそうだ。長くロバート・モンダビでワインづくりを任されていた職人肌の夫妻は、「ローダイには世界最高のワインがありますよ」と胸を張った。
「上質で手頃」が人気
ローダイには85以上のブティックワイナリーがある
現在、ローダイには85以上のブティックワイナリーが共存する。ローダイのワインは、カリフォルニアワインの一つのブランドとして、日本や中国、台湾などでもよく知られるようになってきた。質が高くて値段が手頃という「お得感」が人気の理由だそうだ。
小規模で家族経営のワイナリーが多い土地ならではのフレンドリーな雰囲気も、訪れる人にとっては、魅力の一つに違いない。
白ワイン専門の「アクイエス・ワイナリー」のオーナー、スー・ティプトンさんは、南フランスに似たローダイの気候に惚れて、シカゴから移住した。女性のワインメーカーであることに加えて、50歳を過ぎてから趣味が高じてワインの道に進んだ、というのも珍しいケースだ。
「私は言ってみれば『アウトサイダー』ですが、ローダイの人たちはとても協力的です。収穫期には皆で助け合う。そういう風土も気に入っています」と話してくれた。(文・写真=佐藤美玲) (ローダイ②に続く)
Michael David Winery 4580 W. Hwy. 12, Lodi, CA www.MichaelDavidWinery.com 2002年に初めて出した「Seven Deadly Zins」が高く評価され、ローダイ全体の知名度も押し上げた。ファーマーズマーケットやパンプキンパッチを併設。家族で楽しめる。写真は、共同オーナーのマイケル・フィリップさん。
Lucas Winery
18196 N. Davis Road, Lodi, CA
www.LucasWinery.com
バランスよく落ち着いた味わいのシャルドネとジンファンデルが有名。写真は「Lucas Winery」のオーナー、デイビッド・ルーカスさんとヘザー・パイルさん夫妻。
Acquiesce Winery
22353 N. Tretheway Road, Acampo, CA
www.AcquiesceVineyards.com
白ワインしかつくらない、こだわりのワイナリー。生産は年間1100ケースほどで、すぐに売り切れてしまう。
Jeremy Wine Co.
6 W. Pine Street, Lodi, CA
JeremyWineCo.com
ダウンタウンにテイスティングルームがある。オーナーのジェレミー・トレテビックさん(写真)は、日本語のガイドブックに紹介されたことがあるそうで、「ときどき日本から来た人にサインを求められる」と話してくれた。
ローダイの観光情報はここで! www.VisitLodi.com Special thanks to Visit Lodi! Conference & Visitors Bureau 佐藤美玲(Mirei Sato) ジャーナリスト。ロサンゼルス在住。東京生まれ。朝日新聞記者を経て、渡米。UCLA大学院アメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UC Berkeley博士課程中退。日系雑誌の編集者を務め、フリー転身。旅を通して、歴史と文化、ランドスケープとアイデンティティーを探る。 VenusAtPoise@gmail.com
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