新移民たちが耕した、肥沃な大地:ローダイ(カリフォルニア)②
ローダイのダウンタウンのシンボルのゲート
ローダイがあるサンホアキン郡は、東にそびえるシエラネバダ山脈のふもとに、細長く広がる土地だ。北からサクラメントリバー、南からサンホアキンリバーが流れ込み、ここで交わる。
夏の日中は暑いが、夕方になれば「デルタ・ブリーズ」と呼ばれるそよ風が、西から太平洋の涼を運んでくる。「夏でもセーターを羽織ってバーベキューをするんですよ」と地元の人が言うように、朝夕の寒暖の差は激しい。 世界有数の農業地帯
この独特の地形と地中海風の気候が、サンホアキン郡を、世界でも有数の肥沃な農業地帯にしている。ドライビーン、スイカ、ブドウ、チェリー、ピーチ、アプリコット、クルミ、アスパラガス、缶詰用トマトなど、ローダイ周辺でとれる農作物は数えきれない。
ダウンタウンにある壁画「日本人町のおもいで」。古い写真をもとに、日系人の功績をたたえて制作されたという
この土地を耕し、カリフォルニアのみならずアメリカの食卓を支えてきたのは、移民たちだ。ドイツ、イタリア、日本、中国、フィリピン、ポルトガル、メキシコ・・・。ゴールドラッシュ以降、世界中から渡ってきた移民が、母国の食文化や知識を駆使して、土地を改良し、新種の作物を育てた。 たとえば、ここで最初にチェリーの木を植えたのはイタリア系だ。アメリカ人が大好きなアスパラガスも、この地に移住した中国系とフィリピン系の農民たちの試行錯誤なしでは、育たなかった。 1960年代からカリフォルニアでシーザー・チャベスやドロレス・フエルタらが率いた農民たちの労働組合運動は、一般的にメキシコ系移民の運動として理解されている。しかし実際には、フィリピン系農民の強力な後押しがなければ成功しなかった。 ローダイにある「サンホアキン郡歴史協会博物館」に行くと、そんな移民たちの足跡の一端を学ぶことができる。 「ポテト王」と日本人町
日系の移民たちは、穀類や豆、ポテトの栽培で、主要な役割を担った。一番有名なのは、ジョージ・シマ(福岡県出身)だろう。 1889年にこの地に移住したシマは、1万4千エーカーをリースするまでに成功した。1906年には、生産量世界一を誇る「ポテト・キング」として、地元
サンホアキン郡歴史協会博物館にある、「ポテト・キング」こと、ジョージ・シマの功績を紹介するパネル
ストックトンの新聞に大きく紹介されたほどだ。シマはその後、日系移民らを差別する「外国人土地法」が成立した際に、反対運動の先頭に立ち、日系社会のリーダーとして長く活動した。 そんなことからもわかるように、ローダイには19世紀後半、大規模なジャパンタウンがあった。ダウンタウンのメーン・ストリート沿いに、日系人が所有するレストランや床屋、シガーストア、ホテル、ランドリー、仏教会などが並び、にぎわったという。 今は寂しげなローダイのダウンタウンの一角に、ジャパンタウンの面影は残っている。歩くと仏教会やコミュニティーセンターもあった。「日本人町のおもいで」というカラフルな壁画が目を引いた。野球のチームや着物姿の女性、お盆祭りの様子などが描かれている。日系移民とその子孫がローダイの発展に貢献した功績をたたえて、制作されたそうだ。 よみがえる先人の声
私はバークレーの大学院にいた時、北カリフォルニアの日系1世の女性たちの体験談のテープ起こしを手伝ったことがある。ローダイからサクラメントの空港へ向かう帰路、車を走らせていると、その時に聞いた女性の声が、急によみがえってきた。
シダレザクラが見事な池がある日本庭園
「毎朝早く、寒い霧の中、ブランケかついで畑に出ましたよ・・・」
ちょうど、サンフランシスコ湾から渡ってきた霧が、フリーウエーの左右の谷間を低く覆い始めていた。彼女たちもきっと、こんな景色を見ていたのにちがいない。
アメリカの土地を耕し、食を確保するという仕事は、いつの時代も、移民が担ってきた。人種や民族ごとに特有の苦難をくぐりながらも、彼らのアメリカでの運命と体験は複雑にからみ合い、決してグループが単体で存在してきたわけではない。
カリフォルニアの農業移民たちが残した足跡と交差点は、アメリカという国の凝縮した鏡だ。排他的で単純な愛国論がまん延する今こそ、彼らの功績を、よりしっかりと見つめる必要があるのではないだろうか―。
そんなことを考えながら、ローダイをあとにした。(文・写真=佐藤美玲) (終わり)次回からテキサス
A & W Root Beer Lodi 216 E. Lodi Avenue, Lodi, CA www.AWRootbeer.com 沖縄の観光名所で日本でも人気があるファストフード・チェーン。実はローダイが発祥の地だ。1919年に創業者が最初にルートビアを売ったスタンドのすぐそばに、この「1号店」があり、キャラクターのルーティー(Rooty)が迎えてくれる。店内に飾られたメモラビリアを見ながら、子供の頃に両親に連れて行ってもらったA&Wの思い出を語りだす客も多い。フランチャイズのオーナー、ピーター・ナイトさん自身、16歳で初めてしたアルバイトがA&Wで、それが生涯の
キャリアになったというほどの愛着ぶり。スーパーで買う缶とは違って、店で注文するルートビアはさわやかで新鮮な味。フロートのソフトクリームもかためで芯がある。中西部以外ではなかなか食べられないチーズカードのフライ、からっと揚がったオニオンリングもおすすめだ。
Wine & Roses
2505 W. Turner Road, Lodi, CA
www.WineRose.com
ローダイで評判が高い、人気のリゾートホテル。併設されている「Towne House」は、サンホアキン郡を代表するファインダイニング・レストランだ。シェフのジョン・ヒッチコックさんによる、新鮮な食材を使ったオリジナリティーあふれるメニュー。やわらかいラビットのステーキや、ビーツのサラダなどを、地元ローダイのワインとのペアリングで楽しめる。ホテルの朝食もおいしく、プレゼンテーションがかわいらしい。
Pietro’s Trattoria 317 E. Kettleman Lane, Lodi, CA www.PietrosLodi.com クラシックなイタリアン料理の店。裏庭で栽培するハーブや野菜を使い、ポークチョップやパスタを、おすすめのローダイのワインと一緒に楽しむスタイルだ。家族経営ならではのフレンドリーな雰囲気も相まって、いつも地元の人でにぎわっている。
Japanese Garden 11793 N. Micke Grove Road, Lodi, CA www.SJParks.com サクラメント生まれの日系2世マサオ・デューク・ヨシムラの提案でつくられた日本庭園。戦後の日米の傷を癒すシンボルとして、1965年に完成。3エーカーの園内には、日本から寄付された石灯籠や、茶室、赤い橋などがある。池を囲むシダレザクラが見事。
ローダイの観光情報はここで!
www.VisitLodi.com
Special thanks to Visit Lodi! Conference & Visitors Bureau
佐藤美玲(Mirei Sato) ジャーナリスト。ロサンゼルス在住。東京生まれ。朝日新聞記者を経て、渡米。UCLA大学院アメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UC Berkeley博士課程中退。日系雑誌の編集者を務め、フリー転身。旅を通して、歴史と文化、ランドスケープとアイデンティティーを探る。 VenusAtPoise@gmail.com
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