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Writer's pictureRafu Shimpo

星港(シンガポール)の街かどで ⑬:在シンガポール日本大使館参事官 伊 藤 実 佐 子

 日本の太鼓も熱心に聞く参加者たち

日本の太鼓も熱心に聞く参加者たち


 建国51周年を迎えた8月、リー・シェンロン首相は所信表明演説中に目まいをおこして中断して退席したものの、1時間後に復帰して演説を続けた。シンガポールは多民族・多宗教・多言語国家だから、年に一度の国政方針を語るのに、首相はまずは中国語で、その次にマレー語で、最後に英語で全てをこなすには4時間弱かかる。通訳なし、首相自らの独壇場である。

 今年は3時間しゃべり続けたところで、脱水症状を起こしたというわけである。過酷なフルマラソンに参加しているアスリートのごとくである。この演説で毎年のように繰り返されるのが、民族間の調和であり、国家の統合である。他人を受け入れ思いやろうという呼びかけは、また周辺国にも忍び寄るテロの恐怖に備えるためにも、さらに団結力を求めるメッセージ性が強まったように思える。

 向こう岸はマレーシア

向こう岸はマレーシア

 550万人の総人口のうち、シンガポール国籍を持つ人は約6割。出生率は日本より低いし、ビザの更新や新移民の受け入れが厳しくなったこともあり、人口増加率はこの10年では最低の2%となった。  それでも在来の多民族同士の調和も、また旧市民と新市民の融和のためにも、政府も積極的にコミュニティー単位での取り組みを強化している。この国には16の比例選挙区(GRC)があるが、各選挙区での「ワン・コミュニティー・フィエスタ」という試みが始まった。  過日、マレーシアとの国境に近いGRCでその第一弾が開催され、われわれ大使館にも、日本文化発信の市民向けの活動に対する要請があり、参加してきた。主催者は、当地で草の根コミュニティー活動を統括する人民協会(PA)、そしてその一部のINCs(インテグレーション&ナチュラライゼーション・チャンピオン)である。

 子どもたちの衣装、ダンス、歌、それぞれに

子どもたちの衣装、ダンス、歌、それぞれに

 まさにこの地元で長年暮らしてきた市民と、移民で新しくシンガポール市民となった人たちとの融合を助ける組織である。そこで全員に配られるお土産バッグには、「包括的で調和のあるコミュニティーのために望まれる6つの価値観」が印刷されていて、「受容(アクセプタンス)=お互いの文化、価値観、生活習慣を大切にしよう」「思いやり(コンパッション)=毎日小さな親切を態度で示そう」など、具体的だ。  独立記念日には毎年、国民統合をテーマにした楽曲が発表され、公式な場で歌われるだけでなく、若者にも人気のグループがポップなリズムでカバーしたYouTubeがヒットするようなお国柄である。アメリカ人と同様に、シンガポール人も小学生の頃から忠誠の誓いをあらゆる機会にしている。こういう光景を目にする時、まだ当分日本では見られない現象だろうなぁと、彼我の違いを再認識するのである。

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