星港(シンガポール)の街かどで ⑪ :在シンガポール日本大使館参事官 伊 藤 実 佐 子
「キティ・カフェ」「ポケモン・カフェ」オープンの新聞記事切り抜き。「ポケモン・カフェ」に最初に並んだ男性はれっきとしたサラリーマンだそう
いまさらだが、ハローキティである。シンガポールに着任してすぐ抱いた疑問は、いったい何が彼らをこれほどまでに魅惑しているのか、というものだった。地下鉄やバスの共通パスも、昨年の建国50周年で郵便局から発売されたキャラクター人形も、キティだった。後者においては、シンガポールの多文化を表現すべく、マレー系、インド系、中華系の衣装をまとったものに、徴兵制のあるこの国らしく、ナショナル・サービスの軍服をまとったキティまで発売されていた。
呉偉明準教授(香港中文大学)の論考によると、ハローキティがシンガポールに来たのは、日本で発表されて早くも2年後の1976年、つまり今から40年も前のことである。しかし、80年代から90年代まではその人気にも落ち込みがあり、その後、2000年早々に大きな波がやってきたという。
マクドナルドが「マックキティ」としてバーガーの購入と同時に得られる景品が、ミレニアムを迎えたシンガポールにおいて、「Kiasuキアス(シンガポール英語で「稀少なもの」という意味)」にめっぽう弱いシンガポール人が熱狂し、国内にある114店舗のマクドナルドに人口の8%にあたる30万人が殺到したという。
2015年のシンガポール建国50周年記念で郵便局から発売されたキティ人形と、地下鉄・バスの共通パス(手前2枚)
店頭に並ぶシンガポール人の混乱ぶりは、割り込んだ客同士の殴り合いにまで発展し、BBCにまで放送され、リー・シェンロン副首相(現・首相)をして、「なにもキティのために、大の大人が喧嘩までする必要はなかろう」と叱咤するに至ったという。 これほどまでに日本のキャラクターが愛されているのは嬉しい限りだが、果たしてこれを日本のものと今のシンガポール人は意識しているのだろうか。つい先日チャンギー国際空港のターミナル3に、「キティ・カフェ」が開店したということで、また前日から長蛇の列ができたという報道を目にした。そこでしか購入できないキティが、早くもオンラインでプレミア付きで高値で売買されているらしい。 それで、あらためて前述の呉教授の論文を読み直したわけだ。中華系、マレー系、インド系が共生するこの国で、もっぱら「かわいい」文化に反応するのは中華系のみ、しかも女子が圧倒的という分析であった。シンガポールにおける商品としてのキティは、香港や台湾製が主だそうで、中華系の琴線に触れるキャラクター造りに成功しているといったことも関係あるのかもしれない。 さて、この週末には「ポケモン・カフェ」が開店。前日の朝6時から並んだのは、22歳と25歳の中華系男子2人だった。彼らのハンサムで屈託のない笑顔をみて、また私の驚嘆のため息が混じった好奇心が、ふつふつと沸いてくるのである。
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