星港(シンガポール)の街かどで⑨ :在シンガポール日本大使館参事官 伊 藤 実 佐 子
この旅行即売会は、一般消費者向けで、業者対象ではない。すでに年末の「旅」を買いにくる客のまなざしは真剣だ
世界地図で描かれるシンガポールは、赤いひとつの点にすぎない。その国土面積は東京都23区相当の小ささだ。チャンギ国際空港も、市内からタクシーで25分。それぞれが広大な3つのターミナルは、機能的にトラムで結ばれている。第4ターミナルも現在建設中だ。世界のハブとして、100を超えるエアラインが、320都市を結んで発着している。LAXの年間旅客数7070万人に対し、シンガポールは5410万人という。
狭い島国だからいざ旅行となれば、いきおい海外旅行となる。私も週末をはさんでつい最近インドネシアのバリ島を旅したが、飛行機代は往復で260シンガポールドル(約186米ドル)、片道2時間半。タイのバンコクは同様の飛行時間でさらにその半額だ。時差もなければ、空港に行くまでの渋滞も無く、旅をすることが苦にならない。
「ドラえもん」と一緒に写真を撮るコーナーには、長蛇の列
旅行といえば、このインターネット時代、オンラインで予約したり旅行代理店で購入したりするものだと思っていたら、シンガポールならではの商慣習があった。何事につけコンベンション企画が上手なこの国らしく、今年は大規模な二つの「旅行即売会」が競い合って開催されている。そのうちの一つ、後発組の「トラベル・レボリューション」がマリナベイサンズのコンベンション・センターで3日間にわたり開催されていたので、視察してきた。
これまでブックフェアや学会、各国物産展などは私も経験してきたが、売り物が「旅」というのは想像もつかなかった。各国の大手旅行企画会社が趣向をこらしたブースを設置している。一般消費者向けの即売会だから、家族連れが、巨大なパネルや映像を駆使しての各業者の売り込み合戦のなか、あちこち比較検討をしている。
昨年、日本を訪れたシンガポール人は22万人、70%がリピーターという統計がある。今年、建国の父リー・クアンユーを弔った現首相のリー・シェンロンが、家族で夏休みを北海道で過ごしたのは、初めてのことではないらしい。自らのフェイスブックに美しい写真を何枚もアップして、まるで日本の観光大使になっていただいたようであった。日本コーナーはシンガポールでは珍重がられる雪のかまくら、着ぐるみの「ドラえもん」が登場して、長蛇の列ができるなど大人気。
東北ブースの人気も高く、東北での宿泊客は前年比2・5倍以上とのこと。日本に「地方」の魅力がそれぞれにあることを、狭い国土に住むシンガポール人たちは驚異の目で見ている。多様な魅力を持つ日本、そのこと自体が宝ものであることを、こういう機会に、私たち日本人が再認識させてもらうのである。
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