来夏開設へ向けフォーラム:プロジェクトの構想を発表
スクリーンに映し出されたジャパン・ハウスのロゴを背に写真に納まる(左から)海部優子館長、横川正紀氏、楠本修二郎氏、シルバン・ミシマ・ブラケット氏、渡邉賢一氏と、千葉明総領事
来年夏に予定する「ジャパン・ハウス・ロサンゼルス」開設へ向けたフォーラム「カルチャー・スタートアップ」がこのほど、日米の関係者を集め小東京の「タテウチ・デモクラシー・フォーラム」で開かれ、海部優子館長がプロジェクトの構想や展望を語った。訪米した日本人アドバイザー4人は、スペース・デザイン、食、物販、地方創生の各分野のコンセプトを紹介し、米国人有識者らパネリストらと意見を交わした。【永田潤、写真も】
開会のあいさつに立った千葉明総領事は「日本政府のプロジェクトで、日本について伝え、日本を感じることができる。世界に向け文化、芸術、テクノロジー、観光、エンターテインメントなどを発信する」と説明。「ロサンゼルスが、ロンドン、サンパウロと並び、その拠点に選ばれ幸運である。日本を知らないアンジェリーノと他からの来館者を魅了し、日本を発見する場にしたい」と抱負を述べた。
海部館長はプロジェクトを展望し「日本に焦点を当てた、かつてない官民協働である」と強調。自身はこれまで安定した生活を送っていたので、館長就任を要請され「成功する保証はないので、乗り気でなかった」と明かした。だが「そのビジョンやコンセプト、方針を知り、興味を持つようになり応じた」という。初代館長は「今は光栄に思い、自らの決断に満足している」といい、才能のある優秀な部下と、多大な支援を受ける運営委員会のメンバー、キューレーションを行う4人の日本人アドバイザーなど、スタッフに恵まれ「開館に向け楽観している」と語った。
海部館長はロゴについて、漢数字の「一」に似たユニークなデザインを「ジャパン・ハウスの一貫した価値観である『簡潔』『丁寧』『繊細』『緻密』を表わしていて、シンプルながら、さまざまな日本の深みのある特色がこの『一』に凝縮されている」と説いた。また日本の多様な地方(創生)の文化や科学技術、食などを総合的に表わし、「多様性を包含している」と力を込めた。その分かりやすい一例として、地元にある他の政府系3機関、国際交流基金(日本文化と日本語教育)とJETRO(ビジネス)、日本政府観光局とのコラボレーションを挙げた。最後に「日本を発見し、または知られていない日本を再発見し、日本の新しい何かを見つける旅にしたい」と願い、プロジェクトへの参加を呼びかけた。
パネルディスカッションで、意見を交わす(左から)谷川じゅんじ、リッチ・チェリー、エリザベス・サリバン、エドワード・P・ガラガファの各氏
プログラムは、「デザインとスペース〜新しい発見へのゲートウェイ」と、「食のキューレーション」の2部に分かれ、活発に話し合われた。 デザインとスペースでは、空間デザインを担当する谷川じゅんじ氏と、昨年LAダウンタウンに開館した現代アート美術館「ブロード」のリッチ・チェリー副館長、シリコンバレーで人気のアート・テクノロジー美術館「PACEギャラリー」のエリザベス・サリバン館長、「スカンジナビアン・ハウス」のエドワード・P・ガラガファ館長の米人有識者4人が意見を述べた。
「LAに日本を『和える』 空間をデザインする谷川氏 空間デザイナーの谷川じゅんじ氏(「JTQ」社代表)は、ルーブル美術館など世界各所の展覧会やレクサス、ユニクロなどのブランディングを手掛ける。今回のプロジェクトでは総合プロデューサーを務め、複合商業施設「ハリウッド・ハイランド」内の2階と5階で展開する両フロアの空間をデザインする。谷川氏の着想は、「コンセプト」から「デザイン」、「(情報受信者の)体験」、そして「ブランド」へと発展させ、「見えない価値や存在、エネルギーを空間内に生み出す」という。 同プロジェクトのコンセプトは、日本語の「和」を根幹とする「LAに本物の日本を『和える』」。「われわれの感覚や感性を感じてもらうために『和える』」とし、その空間の中では「伝える日本人と、興味を持ち日本を体験しようとする人がコミュニケーションするための場所を作る」という。 2階では、ロンドン、サンパウロ、LAを巡回する企画展などを催す。展覧プログラムと正面のストアは「ゆるやかなテーマでつなぎ、さまざまな表現が結びついて、より有機的に奥行きや広がりを感じてもらう」。玄関口に掲げる暖簾をくぐると、シンプルなギャラリー空間が広がり、展示や映像の上映など各種のプログラムを展開する。 5階は施設の最上階で、空間のムードは2階と違って、日本的なウッドテクスチャーを用いる。最初に入るスペースは、「気軽に立ち寄ってもらえる」地域や物の情報や書籍、映像のためのマルチメディアギャラリー。多目的スペースは、シアターやセミナー、ダイニングなどに活用でき、食を軸にさまざまなプログラムを展開。正面に大きなオープンキッチンを配し、シェフが調理を実演する。ハリウッド・ブルバードに面するスペースは、すべてオープンテラスで「美しい夜景を見つつ、洗練された日本の食事を楽しんでもらえる」。その反対側のテラスでは、ポップアップカフェとして、さまざまなお茶やお酒を飲むスペースとし「これらを組み合わせて、空気間をさまざまなプログラムを通じて届けたい」 「ジャパン・ハウスは、作るのが目的ではない」と強調し、「いかにさまざまなコミュニケーションが生まれ、新しい関係が芽生えていくか、まさにプラットホームであり、いいコミュニケーションスペースに育てたい」
「食」「物販」「地方創生」 日本人各アドバイザーが担当 5階で展開する「食」のキューレーションは楠本修二郎氏(カフェ・カンパニー社社長)、「物販事業」が横川正紀氏(ウェルカム社CEO)、地方創生を渡邉賢一氏(元気ジャパン代表理事)の日本人アドバイザーが、それぞれを担当する。フォーラムでは、これら3人と、サンフランシスコの居酒屋「リンタロウ」のオーナーシェフ、シルバン・ミシマ・ブラケット氏が登壇し、持論を述べるなど、熱弁をふるった。
日本の「美食」について語る楠本修二郎氏
テーマは日本の「美食」 楠本氏「ハーモナイズさせる」 全国にカフェ105店舗を構える楠本氏は「地方を食から元気にする」を信条に、「地域らしさ」を前面に押し出した戦略により60ブランドを揃える。 プロジェクトでは「日本の『ガストロノミー(美食)』がテーマで、ジャパンを表わす『和』の『和える』、『ハーモナイズさせる』」と力を込める。和食を海外進出させる発想はなく「日本の食を『ハーモニーフード』として、LAとアメリカの中で、根付かせる場、調理づくり」を目指す。世界で活躍する日本人シェフのコラボレーションも企画する。 素材、文化、技法、自然と、それぞれをハーモナイズさせまた、重要という「旬」を駆使し日本の季節を演出する。「北は北海道から、南は沖縄、九州まで、食材、気候を含めた多様性がある。地域の多様性と、旬といった季節感の多様性を伝える」 日本酒の原料のコメ、そして製造段階の麹を「発酵文化」として紹介に努める。コメは、土鍋で炊くさまざまなご飯や、押しずし、蒸しずしなどを例に挙げ「まだ、知られていないいろいろな手法を伝えたい」とし、その手法として「和牛は、しゃぶしゃぶに限らない。松茸、旬の魚など、うまみのままいただく日本人の手法と食材をアメリカに届ける」
横川氏「モノで終わらせない」 ワークショップで啓蒙も 主にデザインと食を軸とした60店舗を全国展開する横川氏。「モノだけではなくてモノを通して、ある種のライフスタイルを提案するような店を展開している」という。また美大でデザインを教えたり、食を通した生活の豊かさを提案する。 ジャパン・ハウスでは、2階のショップを担当する。同階の展示ペースを「5階のレストランスペースと強く連動させ、まさに『和える』という、日本の文化や価値観にふれてもらいたい」 店を組み立てる上で、5つのエレメントを掲げる。①「クラフト」は、伝統工芸のセレクトのみならず、クラフトの精神を備えた新しい作家や、新しいモノづくりも取り上げる。②「食とドリンク」は、「5階と連動して、酒やご飯、おかず、常に日常の暮しを取り組む」。ギフトのお菓子、スイーツ、それらのラッピングも揃え「食に関しては注力したい」③「ガーメンツ(服飾)&アクセサリー」は、生活のスタイルに馴染みやすいものを紹介。伝統的な播州織など「日本古来のモノづくりを伝えたい」④「ペーパークラフト&ステーショナリー」は、紙にこだわらず「日本独特のユニーク、繊細、キュートなモノづくり」を紹介する。⑤「アート&テクノロジー」は、暮しの中に溶け込むもの。つぼや張り子などの「昔ながらのモノづくりもある」一方で、「コンテンポラリーもある」といい、ヒューマンロボットなど、新しい技術も伝える。 「モノをモノで終わらせない」ために、さまざまなプロモーションやワークショップで啓蒙する。「違う生活文化に馴染んでもらえるようなショップであり、コミュニケーションを立体的に作りたい」
ローカルの盛り上げに意欲 渡邉氏「次の世代に伝える」 渡邉氏は個人で経営し、そのテーマは「ローカル・クリエイティビティー(地方創生)」。「地域の力を高めていく」という戦略で、日仏両国のシェフによるガストロノミーや、すべてイタリア野菜で作った精進料理「山伏ビーガン」の教育プログラムなどを企画し「社会に大切なことを考え、デザインしている」という。 「『ローカル』の反意語は『平準化』であり、都市化とともに、その動きは加速する」と主張。その中では「『ダイバーシティー』こそが、ローカルの価値だ」と力説する。ダイバーシティーを推進する上で「ローカルをどのように次の世代に伝えるかを常に考えながら、(来館者に)何かをインスパイアーしたい」 すしのメニューは300年の歴史の中で10倍以上に増えた理由を、冷凍・冷蔵技術が進んだためとし「ダイバーシティーも進化し、ローカルをキープしている」という。100年後のすしは「平準化とローカライゼーションの2つの選択がある」と予想し「ローカルにどう向き合うか?」と提起する。サンタバーバラ産のウニを例に挙げ「ローカル食材をどう『すし』や『日本』というコンセプトで調理し、どう発展させるのか?」に挑むという。 米国人訪日客は、年間約100万人を突破したが「もっと来てほしい。47の都道府県に、ガストロノミー・ツーリズムやクラフト・ツーリズムなどで、どんどん呼びたい。地域の方々と、垣根を越えて考える戦略を練りたい」と願う。 「ジャパン・ハウスという柔らかな集合体と一緒にチャレンジし、ローカルを盛り上げていきたい」
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