東本願寺:「環境に優しい」おもてなし【下】
プロジェクトのリーダーを務めた輪番の奥さん、ジャネット・イトウさん(写真左)
小東京協議会のプロジェクト「Sustainable Little Tokyo」や南カリフォルニアを中心に食料援助の活動をする非営利団体「Food Finders」と協力し、環境に配慮した新しい取り組みを始めた今年の東本願寺の盆祭り。今年始めた背景には何があり、何を伝えていこうとしているのか。2回リポートの後半編【中西奈緒、写真も】
◎コラボレーションの背景にはーフランシスコ法王との出会い
万灯会法要をする輪番の伊東憲昭さん(写真右はじ)。
輪番の伊東憲昭さんは、今年6月に仏教とカトリックのリーダーが集まる大会に出席するためバチカン市国を訪れた。そこでフランシスコ法王と直接話をしたことが、今回のプロジェクトを進めていく大きなきっかけとなり、原動力となったのだという。
「私たち人間はどうしても自己中心的な生き方をしてしまう。自分や家族、友だちがよければそれでいいのだと。しかし、世の中を見渡すとアフリカとか中近東などで困っている人はたくさんいて、貧富の差もどんどん大きくなる一方だ。フランシスコ法王はfraternityという言葉を使っていた。協力的に生きていこうという意味。法王はいろんな問題を解決しようしているけど、一人もしくは一つの宗教団体ではできないことがあるという。仏教とイスラム教と一緒に、宗教家の私たちが団結して地球のために、人間のために、生きとし生けるもののために努力しないと将来は暗くなってしまう。私たちももう年だからしょうがないなと思ってしまうこともあるけれど、子供や孫、将来の子どもたちのためにいま働かないとならない。そういうことを法王に気付かせてもらった。だから、違う宗教ともそうだし、いろいろな人やコミュニティーグループと協力して世の中を少しでもよくしていきたいという気持ちがとても高まった。今回こうやってSustainable Little TokyoやFood Findersと協力して、一緒に努力をしていけることはとても意義あること」と思いを語ってくれた。
◎参加者やお店の人たちの声
テリヤキチキンのコーナーで毎年家族の手伝いをしているジャン・ミトマさんは、今年初めてプラスチックの容器を使って販売した。
毎年楽しみに訪れているというコニー・チャンさんは「リサイクル可能な容器は環境によくていい取り組み。これからも続けていってほしい。発砲スチロールの容器よりもしっかりしていてまた使えそう。もっと多くの人がこの活動の大切さを知るといいと思う」と話し、クリスチャンのエミリー・ハシモトさんは「とても素晴らしい取り組み。他のお寺ではまだ発砲スチロールが使われているので、これから東本願寺をまねて広がっていけばいいと思う」と話をしてくれた。
また、テリヤキチキンのコーナーで毎年家族の手伝いをしているというジャン・ミトマさんは、チキンを盛り付けながら「いつも発砲スチロールのトレイを使ってチキンを売っていたから、リサイクルできるこのプラスチック製のトレイを使うのは今年が初めて。こうやって環境にいい方向に向かうのはとても嬉しいこと。こういった取り組みに、私たちは遅れずについていかないといけないと思う」と話してくれた。
この6年間ファーマーズマーケットの担当しているミッキー・オカモトさんは「毎年売れ残ってしまった野菜や果物を処分していてもったいないと思っていたから、とてもいいことだと思う。東本願寺はいつも素早く新しいことに挑戦して時代の先取りをしようとしている。エンターテインメントだって音声のシステムだってそう。若い世代の人たちに興味をもってもらうためにも、オールドファッションなことをやっていたらダメ。どんどん新しいことに挑戦していかないと」と若者の視点で答えてくれた。
◎プロジェクトを担当したジャネット・イトウさん
東本願寺とコラボレーションをすることになった小東京協議会のプロジェクトSustainable Little Tokyo。合言葉は「もったいない」。
伊東輪番さんの奥さんで、今回のリーダーを務めたジャネット・イトウさんは環境・社会・経済の視点からこの世の中を持続可能な社会にしていく「サステイナビリティー」というテーマや、これをこのお寺だけではなくコミュニティー全体にどのように適用させていくかを提案して行動しようとしているSustainable Little Tokyoの活動に影響を受けたのだという。ジャネットさんは今回の盆祭りをこう振り返る。
「紙やプラスチックの容器は、発砲スチロールのものに比べて費用がかかるけれど、実際に売れた商品を考えると、マネージできる範囲内だった。出店で食べ物を持ち帰りたい人にプラスチックバックを提供しなかったので、ネガティブな反応をしている人もいたけれど、それ以外は共感してくれていたように思う。サステイナビリティーを目指していくことはこのお寺だけでなく、コミュニティー全体に対する私たちの責任だと思っている。今そこにある問題に気が付くことが最も大切なことで、たとえ一人一人の力は小さくてもみんなで取り組めばそれは大きな影響力をもつ。私たちはそれぞれ自分の習慣があるから、何かを変えることは難しいこと。でも、時間がたてば「もったいない」という気持ちが自然と芽生え、身の回りの環境にいい変化をもたらしてくれると信じている。この取り組みはこれからももちろん末永く続けていく予定。すでに日ごろの生活でも発砲スチロールを使うのを減らしたり、お寺の水飲み機に濾過システムを使ったり、毎回お寺のニュースレターにはgo-greenをほのめかして紙ではなくて、デジタルで受け取ってもらえるようにメンバーにお願いしたりと少しずつ心がけている」
戦後間もない頃から人々の心のよりどころである東本願寺は、いまより俯瞰(ふかん)的で長期的な視点に立ってお寺、コミュニティー、そして社会全体を眺めている。
環境、社会、経済に優しく、社会が持続していくことができるサステイナビリティーという考えをさまざまな人と協力しながら実践し、地域の中心的な役割を担い、その発信地となろうとしているともいえる。輪番の伊東さんがフランシスコ法王から学んだ「協力的に生きていこう」という言葉「fraternity」がいままさに実践に移され、未来に向けてひとつひとつ苗が植えられているところだ。(おわり)
毎年、浴衣を着て小物を身につけて踊るのを楽しみにしている日系4世のへザー・トヨシマさん
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