松井誠:妖艶な美しさで観客魅了
透き通るような白い肌に着物を身にまとい登場した松井誠
日本の大衆演劇界で活躍し、女形を演じる姿は「生きる博多人形」とも評される松井誠が9日、75回目を迎えた二世週祭のスペシャルイベントとして「松井誠&USフレンズ・ショー」を小東京のアラタニ劇場で開催した。艶のある女形から、勇ましく粋な立役(男役)まで幅広く演じ、歌あり踊りありのショーで観客を魅了した。
白粉を塗り、透き通るような白い肌に着物を身にまとった松井がステージに現れると、その妖艶な美しさに会場からは拍手とともにため息がもれた。
松井は新舞踊「誠心流」の家元で、日本全国で公演するほか、NHK大河ドラマ「風林火山」の北条氏康役をはじめ数々のテレビドラマにも出演。今年、芸道30周年を迎えた。
演目で披露した着物の早着替え「一人着付け」では、姿は美女でも帯を強く締め、踏ん張る様はさすがに男。たくましさが炸裂し、観客から笑いが起きた。
女形を演じる時、役ごとに雰囲気が異なり、違う化粧をしているように見えるが実はすべて同じ。顔の筋肉を使い、表現方法だけを変えているというから驚きだ。女性以上に愛らしい仕草や表情に、男性の観客も思わず見とれる。
立役姿で「道行華」を歌う松井(左)と女形を演じた下町夢之丞
ステージでは歌声も披露し、「道行華」のほか、故・星野哲郎が生前、松井のために書き遺した「誠〜春夏秋冬〜」を歌い上げた。
途中、舞台から客席に降り、観客との握手に応じる一幕も。記念撮影を求められるとすぐさまポーズを決め、声援には投げキッスで応えるなどサービス精神旺盛だ。開いた着物の襟元におひねりを添える観客の姿もあり、会場は大いに盛り上がった。
舞台では松井とともに来米した藤永優翠(藤永流藤永会家元)、藤永優佳(藤永流藤永会の三代目)、茜小雪、下町夢之丞のほか、当地で日本の伝統芸能の継承に励む日本舞踊の正派若柳流若久会、坂東秀十美(日本舞踊教室/坂東流舞の会)、民謡の松豊会、琉球舞踊の玉城流冠千会・与那嶺恵子琉舞道場のほか、USフレンズとしてドウルーデ悦子、宇尾野ゆみ、福島広志、尼崎チュディー、中村恭子&HamaダンサーズらLA、ラスベガスで活動するアーティストも共演し、舞台に花を添えた。
プロデューサーを務めたハリウッドのメイキャップ・アーティスト、奈良佳緒里ターナーさんによると、8年前に初めて松井のショーをみた時に魅了され、以来出演オファーを続け、ようやく叶った公演だったという。地元アーティストたちとの共演も「彼らの日頃の日系社会での活動、頑張りを多くの人に見てもらいたかったから」だと話す。
妖艶な美しさで観客魅了した松井
観客の手拍子とともに迎えたフィナーレの後、奈良さんと元二世週祭女王で女優のタムリン・トミタがステージに登場した。トミタは初めて見る大衆演劇と松井の美しさに思わず「日本人として生まれてよかった」と話し、感激していた。
松井の海外公演は湾岸戦争勃発の前年にハワイで行ったのを最後に実現しておらず、今回が2度目。終演後インタビューに答えた松井は「海外で日本文化を喜んでもらえるのは日本人として誇らしい。LAの観客はストレートに喜びを表現してくれるので、お客さまに盛り上げて頂き助けられました」と話した。
「8年越しでないと無理なのだと分かりました」。そう語るのは新村出・在ロサンゼルス日本国領事。在カタール日本国大使館に赴任していた2012年、日カタール国交樹立40周年の記念式典で日本文化を紹介するため、当時、2年越しで松井に出演オファーをしたことがあったという。「カタール時代には叶いませんでしたが、今日こうしてLAで見ることができてよかったです」と話し、念願の舞台を楽しんだ。
トーレンス在住のナベシマ・ルルさんは、「初めて日本の大衆演劇を見て、その美しさに驚きました。普段は見ることができない日本文化をこうしてLAで見ることができ、貴重な経験になりました」と話した。【取材=吉田純子、写真=永田潤】
フィナーレの後に登場した今回のショーのプロデューサー・奈良佳緒里ターナーさん(左手前)と女優のタムリン・トミタ(右手前)
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