沈んでいく船
「沈んでいく船の中のレストランで、オーシャンビューの席を争ってるようなもの」—大学時代の恩師が日本の未来を憂いていた。私は、なるほどと話を聞いた。 30歳を過ぎてから多民族国家アメリカに来て5年、自分の中の「日本人」をより意識する。同時に、日本人であることをあまり誇れない自分にも気がついている。 初めてマイノリティーとなって生活を送り、日系人と日本人(戦前・戦後移民)コミュニティーのエスニック・メディアに身を置く。 日本から配信されるニュースを浴びつつ、取材を通じて、日系人と日本人が互いにどう思っているのか、それにはどんな背景があるのか、それぞれが今の日本や日本にいる日本人をどう見ているのかなど学ぶきっかけも多い。 遠い昔の日本にタイムスリップしたような感覚を抱かせる日系社会。人々は、先祖から受け継いだ日本を大切にしている。その一方で、それを引きずり、狭いムラ社会の中でおとなしく、異常なほど内輪で互いを褒めたたえあって暮らしている。 特に興味深いのは、色濃く残る「お上意識」。総領事や領事を神様のように扱うようすは分かりやすい例だ。彼らはあくまで外務省から派遣された一職員だが、人々は「勲章」というものがほしいからか、周りに群がりたたえる。勲章を得た人たちは特権を得た気になる。勲章にはいろいろな弊害がありそうだが、表立っては語られない。日系社会のさまざまな問題が解決されないことにも影響していそうだ。 沈んでいきそうな2つの船。日本の嫌な一面を日系社会で見つつ、日本からは重いニュースが流れてくる。大学の恩師は「日本のメディアは政権に腰が引け、もう戦前の雰囲気。原発はどんどん再稼働されようとしていて、憲法改正に政権は前のめり。選挙ではほとんど触れなかったのに、選挙が終われば、憲法改正が争点だったといわんばかり。日本全体はまったく勢いがなく、高齢者の介護と若者の過酷労働の話ばかりが聞こえてくる」と話す。 そして、最後にこう続けた。「日本人であることに、誇りを持たなくてもいい。自分に誇りを持てばいい。今のような日本にきちんと棹(さお)さして、批判できる自分を誇ればいい」、と。 【中西奈緒】
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