終の棲家は
シアトルを発って日本へ。この春も、私たち夫婦の3カ月の介護の旅が始まった。 福岡の私の母は、95歳。この数年は、車で1時間ほどの所に住む妹が実家に通ったり泊まり込むなどして、ひとり暮らしの母を支えている。高知の夫の両親は、94歳と91歳。同居中だった義妹が2人の毎日を支えるようになって4年になる。私たちの帰省は、妹たちに休みを取ってもらうための、いわばケアギバー・サポートだ。 ところで近年、日本で「サ高住」という言葉を聞くようになった。サービス付き高齢者向け住宅の略だという。 これは、バリアフリーなど高齢者を考慮した建物内に一定以上の広さの個室を備え、安否確認や生活相談を受け付ける民間経営の施設をいう。必要に応じて介護サービスや食事提供サービスも行ない、入居は毎月の賃貸契約でなされる。つまり、アメリカで友人たちが入居中のリタイアメントホームと似たようなシステムだ。 日本での従来の「有料老人ホーム」への入居は、権利金を支払って始まる。数百万から数千万円という高額の一時金(入居権利金)が必要とされることが多く、退居に際しての返還金はわずか。このため、初めてアメリカでリタイアメントホームを見学した時には、入退居の容易さを羨ましく思ったものだ。今、それが「サ高住」として日本にも導入され定着しつつあるということらしい。 日本では、介護を必要とする高齢者人口は増加中。しかし地方自治体など公共団体の運営する介護施設は限界にあり、入るには数カ月から数年待ちとか。サ高住制度は、その受け皿役として、補助金制度も定めて2011年に創設された。日本でも、終の棲家選択の幅が広がりつつあるのだ。 「(サ高住で)97歳の母は新たな交流を楽しんでるわ」と知人が言うのを聞くと、友人たちがいなくなったことをいつも寂しがる母にも良いのではと思うが、母は「私は最後までこの家にいるつもり」ときっぱり。 ともあれ、私たち夫婦はこれまで同様、機会あれば日米のいろいろな施設に友人を訪ね、自身の納得の行く落ち着く先を見つけたいと思っている。【楠瀬明子】
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