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Writer's pictureRafu Shimpo

肝っ玉おっ母

 両親を連れて、能登にある演劇堂での仲代達矢さんと無名塾による「肝っ玉おっ母と子供たち」という演劇を鑑賞しました。この物語はドイツの劇作家ブレヒトによって第二次世界大戦中に書かれた戯曲で、17世紀のヨーロッパの宗教戦争(30年戦争)で、戦火を幌馬車で渡り歩く『肝っ玉』と呼ばれたアンナ・フィアリングが主人公です。  演劇堂の舞台後ろの壁が開かれると、施設裏の本当の景色が現れます。借景にした山影の道を幌馬車に乗ったアンナと子供たちが舞台に向かって登場するところから始まります。アンナには父親の違う3人の子供がおり、子供たちのそれぞれの苗字が違うことを通じて、戦地を渡り歩くことで生きる主人公の運命の過酷さを知ることができます。そして、幌馬車と共に兵士を商売相手に生きて行くことしかできないアンナは、ある時には叫び、怒り、歌い、嘆きます。戦場に生きるたくましさや不条理を通じて、戦争の愚かさを物語っていきます。  反戦劇ではありますが、登場人物は戦争を生活の糧としており、戦争に反対する人物は出てきません。戦時に青春時代を生き抜いた仲代さんが、「戦争というものは、結局、金もうけのためにあるんだ」ということを心で訴えていきます。戦争にしか生きられない人々を通して、戦争反対を観客に強く訴え続けるのです。そして、アンナの子供たちも戦争の犠牲になっていくのです。戦争で生きるものは戦争で失っていくということも教えてくれるのがこの作品の深さでした。  物語がフィナーレを迎える頃、閉じていた舞台後ろの壁が開きます。はじめは明るかった外の風景が、真っ暗になっています。遠くには本物の火がたかれています。そして日本海の冷たい風が容赦なく観客席にも吹き込んできて、いつまで続くかわからない戦争の恐ろしさと不安を実感しました。カーテンコールの時には30年前に同じ作品の演出をした仲代さんの妻で1996年に亡くなった演出家の隆巴(宮崎恭子)さんの写真が舞台の上から現れ、出演者全員が手をかざしました。いまだに戦争は終わらないから、天国に行っても演出をされているのだと、気がつきました。【朝倉巨瑞】

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