自前の天文台
パーティーで久しぶりの友人に会った。後日届いたメールには自前の天文台を作りますとある。写真が趣味の彼は、以前、珍しい金環日食の写真をCDで送ってくれた。時々刻々と欠けゆく太陽、動画も交えた数々の写真は圧巻だった。ところが今度は自前の天文台建設だ。長野の小諸に土地を確保して、もう建築にかかっているらしい。子供のいない彼はリタイアして、経営していた工場も甥に譲り、老後はいよいよ自分の趣味に生きる決心をしたようだ。 メールには詳しい設計図もついてきて、アマチュアとしてはかなり本格的な天文台だ。11月半ばに完成予定で、これからさらに天体観測や写真撮影の技術を本格的に磨くという。冬場は天体観測の条件が良いそうだ。仲間を入れて4人でプロジェクトを進めているらしい。きっと毎日ああだこうだと楽しい夢を語りながら作業を分担しているのだろう。泊まれる部屋も作り、鍵も用意した。慣れた頃にぜひ見に来てくれと書いてある。これは見に行かずにはいられない。見せてもらってその雄図(ゆうと)を祝おう。 人間は必ず終わりがある。人の死亡率は百パーセント、何をしたかでなくてどう生きたかである。終わりの瞬間に、ああよい一生だった、自分は十分に生きた、といって終わりたい。加齢とともに記憶力は衰える。人の名前が出てこない。気持ちが先走り、走ると足がついてゆけずに転びそうになる。周りの友人知人が一人ずつ欠けてゆく。果たして自分は十分に生きたのか、よい人生を楽しんだのかと振り返る。そんな時、やはり大事なのは目の前のやるべきことに集中すること。やるべきことを見つけ出し、それに全力を注ぐこと。肉体は衰えても目標を追い続ける気持ちだけは持ち続けたい。 友人の自前の天文台建設は、そんな年代の自分に新たな光と希望をもたらした。来年の春はぜひとも小諸へ行こう。月や星を見せてもらって宇宙の神秘を聞こう。もう一度あの小学校時代の校庭で夜空を眺めた興奮を思い起こそう。う〜ん、なんだか生きるエネルギーと勇気が湧いてきたぞ。そんな気持ちを起こさせた友人に感謝したい。どうです、自前の天文台建設ですぞ。【若尾龍彦】
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