自戒あるのみ
震災と心臓麻痺は突然襲ってくる―とは唐突な言いようだが、本当はその予兆、前触れは確実にあるのだけれど、ただ私たちがそれに気付いていないだけなのだろう。 東日本大震災から5年。映像などを通して、天災のもたらす強烈な破壊力を目の当たりにして、その光景に世界中の人々が恐れおののいた。今でも心臓がパニック症状を起こすのではないかと危ぶまれるほどの、ことばに尽くし難い壮絶な惨状。 そうした状況の中にあっても、暴動や放火、略奪、窃盗がなかったことだけでなく、世界の人々を感動させ、感銘を与えたとされる日本人の見せた秩序ある態度、行動は大きな驚きと受け止められ、今でも広く語り継がれている。 あの未曽有の大災害に遭ってもパニックに陥ることなく、誠実で礼儀正しく、他の人を思いやる気持ち、助け合いの精神、我慢強い冷静な振る舞いは、世界中の多くの人に一種の「カルチャーショック」を与えたようだ。 例えば、①スーパーマーケットの通路に落ちた品物を棚に戻しながら、必要最小限の物だけをカートに入れ、レジの列に並んでちゃんとお金を払ってから店を出て行く ②津波で流された約5700個の金庫が警察に届けられ、約24億円の現金が回収されて持ち主に返還された ③ほぼ満席のレストランで食事中だった客が店員の誘導で外に避難したが、揺れが収まってから、あるいは翌日になってから客はお金を払いに戻ってきた、などのニュースが各国メディアで報じられて、驚きと称賛の声があがっていた。 ややもすれば、こうした大災害時には食料や生活用品を必要以上に買い占めたり、見つけた金庫などはネコババ(横領)したり、レストランの飲食代を払わず食い逃げする人がほとんどなのかもしれない。 「してはいけないことは、しない」という、人としての基本を守れるかどうかの問題なのだが、「人は物を奪い合えば足りなくなるが、譲り合えば余る」ともいう。 こうした点を指摘されると、日本よりアメリカ生活のほうが長くなるにつれ、日本人の持つ謙虚さ、長幼の礼節、思いやりの心などが薄れがちになっている自分がいて、ハッとすることがある。自戒あるのみです。【石原 嵩】
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