top of page
Writer's pictureRafu Shimpo

花子さんのパズル

 4月末から5月にかけて一カ月ほどの間に友人、知人の葬儀に4回も出る羽目になった。その一人がアメリカ人の花子さん。  花子さんにはデニースという本名があるが、生け花の先生につけてもらった花子という名前が大好きで、電話をかけてくるときは必ず「ハーイ、ハナコで〜す」だった。  彼女が癌(がん)に侵されていることは知っていたが、いつも明るく、病気だということを相手に感じさせたことがなかった。  コミュニティーセンターの近所に住んでいた頃は、熱心に生け花のクラスに通っていた。やがてシカゴから2時間近く離れた町に引っ越して、クラスに通えなくなったが、日本文化の行事があるたびに出かけてきて、どんなに混んだ会場でも必ず私を見つけて声をかけてくれ、「イベントのことを知らせてくれてありがとう。とても楽しかったわ。また来るから元気にしていてね」  私はいつも病人に励まされていたのである。  今考えてみると、そんな付き合いが16年も続いたことになる。30年近くパートナーだったAさんが「花子があなたのことをたびたび話していたから、迷惑でなければお別れに来てくれたらと思ったんですよ」と葬儀を知らせてくれた。  看護師であった彼女は、なんと葬儀ディレクターのライセンスも持っていたのである。生涯葬儀社に勤めることはなかったが、インディアナ州で航空機の墜落事故があり多くの死者が出た時は、夜中に車を走らせて事故現場に駆けつけ、ボランティアで葬儀を手伝い、被害者の家族から感謝されたというエピソードも披露された。  動物や花や川の流れ、星や月やオペラ、日本文化を愛し、ふれあいのあった人々を愛し、それらの全てから愛された花子さんの葬儀の後、参列者のほとんどが次々と彼女とのエピソードを披露し、その多くが私の知らない花子さんだった。  私たちは皆、彼女と小さな部分でつながっていたけれど、棺を覆ったあとで、パズルのすべてのピースがそれぞれの場所に収まって、彼女の全体像が鮮やかに現れたような気がした。いつの間にか花子さんは仏教会で法名まで受けていたのである。  釈妙蓮のご冥福を祈り、合掌。【川口加代子】

0 views0 comments

Recent Posts

See All

熱海のMOA美術館に感動

この4月、日本を旅行中に東京から新幹線で45分の静岡県熱海で温泉に浸かり、翌日、山の上の美術館で北斎・広重展を開催中と聞き、これはぜひと訪れてこの美術館の素晴らしさに驚き魅せられた。その名はMOA美術館(以下モア)。日本でも欧米でもたくさんの美術館を見たがこれは...

アメリカ人の英国好き

ヘンリー王子とメーガン・マークルさんの結婚式が華やかに執り行われた。米メディアも大々的に報道した。  花嫁がアメリカ人であるということもあってのことだが、それにしてもアメリカ人の英王室に対する関心は異常としか言いようがない。 ...

野鳥の声に…

目覚める前のおぼろな意識の中で、鳥の鳴き声が聞こえた。聞き覚えがない心地よい響きに、そのまま床の中でしばらく聴き入っていた。そうだ…Audubonの掛け時計を鳴かせよう…  Audubonは、全米オーデュボン協会(1905年設立)のことで、鳥類の保護を主目的とする自然保護...

Comments


bottom of page