藤井四段の師匠
藤井四段の快進撃が遂に止った。将棋のプロ最年少棋士、藤井聡太少年、14歳の中学三年生。昨年12月のデビュー戦から先輩棋士を次々と破って無敗を続け、30年ぶりの公式戦連勝新記録「29」の歴代単独1位を達成したのが6月26日。7月2日に30連勝を逸したのだが、ここまで日本中を湧かせ興奮させた。報道も熱かった。多くの人が藤井四段について知識を増やしその才能と大人みたいに落ち着き、賢明で謙虚な人柄に感嘆したと思う。僕もその一人だがその過程で藤井少年の師匠、杉本昌隆七段(48)の人柄にも注目した。 連勝が続いている最中に報道で見聞きした杉本師匠の言葉を思い起こしてみる。 藤井少年は小学4年生の時、杉本七段の弟子になり入門初日に対局、ハンディをつけず双方全駒で戦い藤井少年がいきなり完勝したという。幼少期から藤井少年の才能は輝いており、既にプロ棋士の間でも知られていたが、この時杉本さんは、藤井少年の技術とひらめきはずば抜けているので、この子に技術の指導はしない方がよいと考えた。プロの常識的な指導は必要ない、高い素材はあまり手を加えない方がよい、型にはめない方がよい、そのままの味で大きく育てたいと考えた。それまで弟子に対しては対局で指導して来たがそれを変えた。弟子どうしの対局にアドバイスすることにした。「自分と指す事により良くも悪くも影響を強く受ける。それで小さくまとまってしまったり、こうすれば勝ちやすいとか従来のプロの常識や概念を植え付けたくなかった」 メキメキと力を伸ばしていった藤井少年。連勝を続けている時、杉本さんは「連勝記録が伸びるのを期待しつつも勝ち負けを越えた本当の強さを身につけてほしい」と考えていた。いつか必ずくる「負け」を越えてさらに強くなるためには、その時に何を思うかが棋士人生に重要、と言う。勝敗を気にせず将棋好き少年の気持ちのまま差してくれれば、結果はもうどうでもいい、と。本当にいい師匠に付いたと思う。藤井四段はまだ14歳の少年。競い揉まれながらさらに成長し将棋界の立役者になって行くだろう。先が楽しみだ。【半田俊夫】
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