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Writer's pictureRafu Shimpo

負うた子に教えられ

 一度高層ビルに当たったミシガン湖からの寒風が、シカゴの街に吹きおりてくる風の街の冬。時々寒気のゆるむこともあるが、やはり3月まではバカに出来ない寒さである。  気温はともかく立春も過ぎて、世は大統領選の予備選挙戦たけなわだが、立候補者が多すぎて混乱状態が続いており、当てにならない公約にも、対抗馬との泥仕合の攻防戦にも、いささか食傷気味になってきた。公開討論会の中継も「ああまたか…」とチャンネルを切り替えてしまう。  職場のコミュニティーセンターに稽古場を持つ日本舞踊の教室から流れていた長唄の「雨の五郎」の調べが止み、どうやら稽古が済んだらしいと思っていると、お稽古を終えた師匠が出てきて、「今日はキャシーがとても腹を立てていてね、お稽古に身が入らないようなんだ」という。  よく話をきいてみると、もうすぐ14歳になるキャシーが、大統領選の花形候補(?)のドナルド・トランプ氏の発言に非常に立腹しており、もし彼が大統領になるようなことがあれば、アメリカはどうなるのだろうと真剣に心配している彼女を、お母さんがなだめているというのである。  それを聞いて、ついこの間までハロー・キティのコレクションに夢中になっていたのに…と子供の成長の早さに驚かされた。5歳のときに祖母に手を引かれて入門したキャシーは大変な頑張り屋で、学校の成績もよく、新しい曲に挑戦するときも、決して投げないで出来るまで稽古を繰り返す芯の強さがある。  もちろんキャシーにはまだ選挙権はない。しかし立候補者の発言に真剣に耳を傾け、理解しようとし、大人の理不尽に腹を立てているのである。  この9年間、日本舞踊を通して成長振りを見てきたキャシーは私の孫もどきなのだが、自分の14歳の時、私ははたして、日本の総理大臣の発言にどれほど真剣に耳を傾けただろうかと考え、今や本気で大統領を選ぶ心構えが失せつつあることに気が付いた。  「負うた子に教えられ」とはこのことかと、せっかく与えられた市民の権利をいい加減にしそうになった自分がいささか恥ずかしい。【川口加代子】

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