車人形に魅せられて
毎年日本から伝統芸能のアーティストを招いて開催されているシカゴの和太鼓グループ、司太鼓の「太鼓レガシー」公演は今年で14回目を迎え、音楽のエキスを集約したような、中身の濃い「リダクション」公演も5回目。 今年はゲストの一人として、今回がシカゴデビューの八王子車人形五代目西川古柳家元が参加。 私は高校生の頃から文楽が好きで、一人で文楽座に通ったことがある(文楽座だけはなぜか同級生たちは、誰も付き合ってくれなかった)。 車人形が来ると聞いただけで期待がふくらんだ。公演間近になって、文楽の三人遣いと異なり、一体の人形を一人で遣うことを知った。 初日の第5回「リダクション」公演での演目はダイジェストされた「鷺娘」。 ろくろ車を仕掛けたスツールに腰掛けた(これが車人形の所以なのだが)古柳師が、華やかな紅い衣装の人形を後ろから抱くような形で登場、しばらく恋する娘を踊り、娘に鷺の精が乗り移るところで衣装は白に変わり踊りは狂いに入る。 そのあたりでもう背後で人形を遣う古柳師の存在が意識から消えて、鷺娘の踊りに引き込まれ、表情のないはずの人形の顔に苦悩まで見てしまった。 車人形は、神に奉納するための踊りや物語を、人形を通して神前に捧げる神事として、また数少ない娯楽として代々引き継がれてきた。初代により、随所に一人で操るための工夫が凝らされた古柳座車人形は、五代目の今日、八王子市や都の無形文化財に、そして国の選択民俗無形文化財に指定されるまでになり、多く海外でも公演されており、ニューヨークにはその技術を学ぼうとする門弟までいる。 160年の伝統を引き継いだ五代目は、文楽人形の修業もし、日舞は「ちょっとかじっただけで」と言いながら名取クラス。積極的に新しいものを取り入れ、違うジャンルのアーティストとの共演で自らを磨き、伝統芸能の将来を見据えておられるようだ。 インターネットで五代目のインタビューを読んで、「伝統を守るだけでは後退します。」の一言に、ドキッとさせられた。 まさに…。 また一つ勉強させて頂きました。【川口加代子】
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