過去最高の2600人超参加:新たなトレンドを発信
スパイスをブレンドし、自分好みのカレーを作るセミナー参加者
日本食卸業「共同貿易」(山本耕生社長)が主催し、日本国外で世界最大規模を誇る業界向けの「日本食レストランエキスポ」がこのほど、パサデナのコンベンションセンターで行われ、さまざまな食材やサービスの紹介、メニューの提案を行うなど、新たなトレンドを発信。国内外から初参加業者を含む126業者、2675人の来場は、ともに過去29回目で最高を記録した。【永田潤、写真も】
ロサンゼルス本社敷地内から会場を移したパサデナでの開催は、今年で6回目。毎年増え続ける出展企業と来場者に対応し、今年は全3館(昨年は2館)を借り切った。会場は、レストランのオーナーにシェフ、メーカー、セールスレップ、ベンダー、グロッサ
商談が成立し、参加者の注文を受ける共同貿易のスタッフ(右)
リーなど各業者が真剣に向き合い商談に務める「B to B」ならではの光景があちこちで見られた。活気に溢れ、世界に広がりを見せる日本食の勢いを感じさせた。 製造から卸売、小売、消費までの「共存共栄」を掲げる共同貿易は、単なる食品問屋ではない。近年、加速する高級志向に対応し、スタッフを日本に派遣し知識や技術を学ばせ、地酒に代表されるように各エキスパートを育成。専門知識を持って商品説明に努め、食文化を啓蒙する。 山本社長によると、都市部でも日本人和食店経営者とシェフの割合は1割を切り、地方ではさらにその割合は下がるといい「このままでは日本食の無国籍化が懸念される。今後のさらなる日本食の発展のためには、日本食の教育が大切である」と力説する。同社
人気の各種総菜の試食
は、ミヤコ・スシスクールを持っており「プロのすしシェフを養成し、伝統的な日本食の調理法や衛生面などを教えて、日本食文化の啓蒙に努めている」と話す。 同社はまた、日本食の今後のトレンド紹介に力を注ぐ。トレンドは発信に留まらず、メーカーと協力し次の流行を生み出す商品の研究・開発に加え、サービスの提案も行うなど、まさに「トレンドの仕掛け人」だ。 日本食は、人気のラーメンを筆頭に今流行のポケなどの大衆食から、すし、懐石、割烹、天ぷらなど高級食まで、大きく広がり、共同貿易はこの二極化の流れに対応した販促活動を展開する。 山本社長は「ラーメンは一時のブームではなく、ラーメン文化として広く定着してきている。米国で人気を得て、身近で日常的な食となり、日本食の大衆化にも貢献している」と語る。また、同社はラーメンが一般的になる2008年から、麺とつゆの大手二社と
マイナス60℃の超低温冷凍(ULTS)で保存したハマチの刺身を試食する参加者
の緊密な業務提携の下に講習会やイベントを独自で全米や海外で展開し、ラーメンのエキスパートとして普及に努めているという。 一方の高級食については、人気上昇の和牛をはじめセ氏マイナス60度の超低温冷凍(ULTS)保存の魚介(マグロ、ハマチ、くさみがないハーブ鯛など)、日本産プレミアム米などを列挙し「酒も1本1000ドルの地酒が売れる時代で、日本食は本格的でクオリテイーの高いものが求められるようになった。おいしい物を食べたいお客さんのために、レストランは常に、良い食材、良い調味料、良い調理法を求めている」とし、高級割烹「小野寺」の成功例を示した。 今年は新たな日本食のトレンドの一つとして、このエキスポでは、大衆食として「カレー(料理)」、高級食は地酒をおいしく飲むための「ぬる燗」の燗酒の紹介に力を注いでいた。エキスポのセミナーの中で、これからの「カレー」と「ぬる燗」の作り方を紹介し、食品ブースでは「カレー」の試食、地酒ブースでは多くの地酒酒蔵が「ぬる燗」を振る舞った。
カレー料理の提案いろいろ 「店のメニュー増やして」 エスビー食品(本社トーレンス)が行ったセミナーでは、カレー発祥のインドからイギリスに普及し、日本では国民食となった歴史やルーとパウダーの2種類を選ぶことができるなど基礎を紹介した。あらゆる料理に合わせることができる万能性を強調。「Make
カレーを使ったさまざまな料理の提案したエスビー食品のセミナー
your own powder」と呼びかけ、用意した数種類のスパイスを参加者にブレンドさせ「料理に使って店のメニューに加えてほしい」と持ち帰らせた。 共同貿易の阿部真臣・仕入れシニアマネジャーによると、セミナーの狙いはカレーについて知識が少ない参加者に、一から教えることが目的とし「カレーを知ってもらって、楽しんで食べてもらうために分かりやすく教えてもらった」と説明。カレー料理は、日本ではカレーライスが定番だが、米国では人気のラーメンを一押しし「他にもうどん、唐揚げ、ビビンバ、麻婆カレーなど、汎用性があるのでアイデア次第で、いろんな提案ができる」と自信を示す。「それこそ、シェフの腕の見せどころ。お客さんの好みに合わせて『Make your own curry』と勧めたい」と述べた。
「10年で定着すればいい」
ぬる燗を試飲した小谷さん
朝日酒造(新潟)のブースで人気ブランド「久保田」の吟醸酒「千寿」のぬる燗を試飲した小谷尚史さんは、レドンドビーチのピア上に、すしと各種和食を提供するレストラン「オリエンタル・ブリーズ」のオーナー&シェフを勤めて約11年が経つ。セ氏42度の温度に設定していた他の試飲ブースに対し「久保田は、人肌くらいの温度だったので味が生きていて、おいしく飲めた」と話した。
店では、人気の冷やと、熱燗を出していて「ぬる燗を勧めるのか」の問いには「まだ早いかもしれない」と答えた。その理由を「アメリカ人は、冷やか熱燗が慣れているので、その中間はまだだと思う。飲まれるには、10年かかるかもしれない」と述べた。
久保田のぬる燗を試飲し、説明を聴く小谷尚史さん(右)
「10年かかる…」と予想するのは、すしを食べ慣れるまでの客の習慣だといい「巻き物とコーラ」から「握りずしとビール」そして「刺身と地酒」へ、というステップアップを見てきたからだ。「アメリカ人は巻き物から入って、徐々に握りずしを食べるようになる。味が分かり、刺身を食べる洗練された客は必ず日本酒と組み合わせる。そこまで行き着くのに、お金を使って10年近くかかっている」と説いた。 ぬる燗のキャンペーンに対しては「紹介して、はやるきっかけになり、浸透すればいい」と期待を込めた。焼酎の普及も願っており「ぬる燗と同じで、これから。日本では、日本酒から焼酎にも向かっているように、時間がかかると思うが、アメリカでも飲まれるようになれば、酒の幅が広がりうれしい」と待ち望む。 共同貿易のエキスポには、毎年参加しているといい「他と比べてレベルが高い。顔を知っている業界人ばかりなので安心する」と信頼を置く。日本から参加した業者が勧めた質の高い食材を試食し、納得の表情で「アメリカでも広まればいい」と希望。米国の和食業界については「日本食は、進化している。何十年前と比べて味はよくなり、客のレベルも上がっている」とし、経営者の立場から「いろんなところで食べたり、飲んだりし(研究し)ないといけない」と気を引き締めていた。
参加者の熱意を肌で感じる
山本共同貿易社長
「新しい日本食の時代をともに築きたい」
今年のエキスポについて「多くのレストランの皆さんが、出展されているブースを一つひとつ試飲、試食しながら、メーカーの担当者と熱心に話していたのが印象的で、今回過去最多のお客さんに来てもらって皆さんの熱意を肌で感じた」と総括した。
「このエキスポに来てもらえば、今のアメリカの日本食のトレンドが分かってもらえると考えている」と語る山本社長は「新しい食材や調味料、地酒などを紹介し、レシピも提案している。そして、試飲、試食してもらい、ぜひ、ここから明日の新しい日本食を生み出してほしい」と希望した。
消費者の顧客がレストランを選ぶのに、イエルプやフェイスブックなどソーシャルメデイアを活用し、店を決める人が多いとし「事前に調べて食べに来るお客さんのニーズに合った味を常に提供したいというレストランの皆さんの気持ちに応えられればと思う」「これからもレストランはじめ皆さんの求める商材を提供し、新しい日本食の時代をともに築いていければと願う」
今後については「日本の味を世界の人々に」のモットーの下に、日本食のさらなる普及、啓蒙と日本食の新たなトレンドを創り、日本食市場のさらなる発展を目指していきたい」と結んだ。
会場を見て回り、ブース出展者を激励する共同貿易の山本耕生社長(左)
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