還暦の挑戦、念願の語学留学:「きつかったが、すごい経験」
卒業式で披露する寸劇のリハーサルを見て、他の国からの語学留学生と笑う長谷川さん(右)
千葉県松戸市から来米し、UCアーバンインのESLで学んだ長谷川由佳里(60)さんは、4週間のプログラムを修了し、念願だった語学留学を果たした。還暦の挑戦は「きつかったけど、すごい経験ができた」と、充実したキャンパスライフを堪能した。
42年間勤務した松戸市消防署では、救命士を10年、同市で初の女性隊長を務めた。今年、定年退職したが「人を助けたい」という気持ちは体にしみついており、災害時の在日外国人、訪日旅行者の困難を心配する。「日本語の分からない人を助けたい。でも、英語が通じないことを恐れ、声を掛けることができない」。語学留学を夢見ていた。
卒業式のリハーサルで、愛嬌を振りまく長谷川さん(左端)
同校のアカデミック・コーディネーター、マーラ・ヨシダさんによると、全校生徒約480人は、東アジア圏からが大半を占め、中国が最も多く、日本、韓国、台湾、他はサウジアラビア、カタールなどの中東、そして南米、欧州諸国など。 生徒の語学習得の目的は、米国の大学への留学や母国の大学からの編入学、大学院進学、ビジネススクール、ロースクール入学、社会人は英語を磨き国際ビジネスで役立てるため、とさまざま。だが「日本から来た引退した女性は、ユカリが初めてで、立派だ」と語る。 日本では地元の英会話教室に通い、外国人教師から習ったが3度やめた。挫折は「甘えがあったから」と反省し、一念発起して渡米。米国生活のスタートは、学校への車の運転で「右(側通行)と左が違うので、たいへんだった」という。 さらに困難だったのが、実際の授業だった。語彙(ごい)、文法、発音、リスニング、スピーキング、エッセーなどで「カジュアルな英会話だと気軽に思っていたのに…」。日本の英会話教室では、分からなければ、日本語で助けられたが、もちろんここは英語のみ。「聴き取ることができないので、最初の頃は孤立感があった」という。
語学留学は、一生の財産
「自信を持って積極的に話す」
クラスメートは、親子以上の年齢差がある20代半ばの15人。英語の習得は進学や仕事での必要性に迫られているので「立場の違いを感じた」という。他国の生徒はまた「聴き取ることができ、話すこともできる。現在形や過去形などの文法が間違っていても気にせず話し続ける」と、「受験英語」の日本人との大きな差を肌で感じた。さらに、中国、韓国の生徒の考え方は、控え目な日本人と正反対で「人の言うことをあまり聞かずに、どんどん話し、貪欲に自己主張する」と、国民性の違いに圧倒された。一方の日本人は「島国根性のままで、英語力、国際的な考え方でも遅れている」と、危機感を抱いたという。
クラスメートと談笑する長谷川さん(右)
一番仲のいい級友は、中国・上海でファッションデザイナーをするサミー(リュアン・ジュアン)さん。長谷川さんについて「とても優しく、素敵な女性。勉強を教えてくれ、お姉さんのよう」と慕い「ファッションセンスもいい」と誉める。韓国・大邱出身のへミン・キムさんは「言葉がなかなか通じなくても、諦めずに話してくれた。みんなを尊敬してくれて、心を通わせることができた」と話した。
教師のアニー・パークさんは、生徒に自国の文化を紹介させるなど、会話を重点に、楽しみながら英語を学ばせた。長谷川さんについて「とても勉強熱心で、できるまでやり通す向学心がある。私のクラスは、少し難しい内容だったけど、よく頑張って付いてきてくれた」とたたえた。「これからも英語の勉強を続け、次の学期にまた戻ってきてほしい」と願った。
卒業式では、グループごとに笑いを誘う寸劇を披露し、学習の成果を発表。苦楽をともにした級友との別れを惜しみ「みんなに助けられ、ありがたく思う。いろんな人がいて、世界に隔たりはないと感じた。一生懸命の若い人から刺激を受けて『自分も頑張らなきゃ』というやる気が沸いた。いい友達ができ、視野が広がった」と、達成感に浸りながら語った。
語学留学を振り返り「一生の財産になった。人生でこれだけ困ったことはなかった。この苦労を思うと、日本で何が起こっても、へっちゃらだと思う。スターバックスなどで外国人を見つけたら、自信を持って積極的に話しかけたい。町で困っている人には『Do you need help?』と」。
クラスメートと集合写真に納まる長谷川さん(左から3人目)。右となりが教師のアニー・パークさん
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