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Writer's pictureRafu Shimpo

鼻濁音が心にしみる

 毎秋、ボイルハイツのサクラガーデンズにボランティアに行かせてもらっています。今年のコンサートは、由紀さおりさんと安田祥子さんの姉妹でした。忘れかけていた懐かしい童謡や唱歌の美しい日本語の歌詞が、心を芯から温めてくれました。こんなにも歌う人によって受ける感動が違うのかとの思いと、ここに住んでいる方々は素晴らしい歌に癒され、幸福を共感しているように思いました。そして、なぜ美しい日本語は私たちの心を落ち着かせ、感動させるのか、深く考える機会となりました。  その秘密は日本語の、が行にありました。「ふるさと」を唄ったときでした。「忘れがたき、ふるさと」という歌詞がありますが、このフレーズを聞いたときに、まぶたが閉まり、こみ上げる気持ちを抑えられませんでした。「忘れがたき」の『が』の発音が、美しい鼻濁音になり、その後に続く「ふるさと」が耳にしみいってきたのです。もちろん、人を言葉で感動させる手法はたくさんありますが、自身の故郷への思いをより深く感じさせる要因のひとつであったと思うのです。  鼻濁音とは鼻から息を抜いて発音する、が行の音です。例えば鏡(かがみ)の『が』を発音するとき、鼻にかからない場合は濁音となり、鼻から息を抜いて発音される場合は鼻濁音となります。ただし通常単語の最初の、が行は濁音となります。英語で言うと~ingのgが鼻濁音になるように、意味は同じでも発音によって聴く感覚に違いがでるのです。どうやら言葉や歌詞が耳に入って来た時に、鼻濁音と濁音の使い分けがはっきりしていると、美しさとか心地よさが生まれるらしいのです。実はアナウンサーなど、声を仕事とする方の多くは、この鼻濁音を習得しているのです。  どこに住んでいようと、美しい言葉を継承していきたいという思いは共通です。人に話をするとき発音に気を払い心を傾けると、相手が感じ入る印象を変えてしまうものです。言葉はまさに心を表すものだからです。紀貫之も『古今和歌集仮名序』で詠んでいます。  やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける【朝倉巨瑞】

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