VW排ガス不正問題:日本の計測器、解明に貢献【下】
堀場製作所・米国本社社長に聞く
世界を揺るがす不祥事へと発展した独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制不正問題。不正発覚に貢献した計測器を製造していた「堀場製作所」のアーバインにある米国本社「ホリバ・インスツルメンツ社」の堀場弾社長に、今回の事件で使用された計測器や事件後について話を聞く後編。【取材=吉田純子】
ウエストバージニア大学が実施したVWの排ガス検査で使用された「堀場製作所」の車載型排ガス測定装置「OBS(On Board System)―2200」(堀場製作所提供)
堀場社長によると事件発覚後、製品の引き合いは10倍に増えたという。米国では現在、路上での排ガス量検査は義務化されていない。理由として実際に走行して行う検査はどの道で測定するかによって環境が異なり、数値にも影響するため、一定の基準で検査するのが難しいことが上げられるという。 「これまでは試験室の中で同じ環境の中で検査をし、そのまま道路にでても基本的には同じだという考え方でした。しかし今回の事件ではこれが抜け道になってしまった」と堀場社長は話す。 EPAは今回の一連の事態を受け、排ガス検査を強化する方針を固め、ガソリン車への検査も強化すると発表した。堀場製作所によると、欧州では路上走行時の排ガス規制は2017年から大型車だけでなく、世界で初めて乗用車にも適用される予定だという。 「各メーカーやEPAなどの政府機関をはじめ、実際の道路での測定を義務づける規制が今後できてくるかも知れません。実際に走行しながら排ガス量を測定し、規制値を満たしていく方向性になればいいとわれわれは思っています」。 一方で今回の事件の発端となったVWは堀場製作所の顧客でもある。「計測器は普段日の目を見ない製品です。東日本大震災後の放射線モニターもそうでしたが、われわれが意図していた形ではなく、出来事や事件があってからわれわれの製品が注目を浴びました。今回の事件で不正発見に貢献できた半面、正直なところ複雑な心境なのです」と堀場社長は胸の内を明かした。 同社は戦後日本の学生ベンチャーの先駆けとして、当時京都大学の学生だった故堀場雅夫氏が1945年に創業した。現在は日本をはじめ米国、アジア、欧州など世界各国にグループ会社が38社ある。同社長は雅夫氏の孫にあたる。 同社の自動車排ガス測定器の世界シェアは80%で第1位。今回使用された車載型の計測器の世界シェアは米企業に次いで第2位となっている。 同社は今後も継続して小型軽量を実現した車載型計測器を提供することで、自動車メーカー各社や公的機関の測定ニーズに対応していくとしている。
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